茜空に飛べ! | ナノ


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万事屋さんに出会って、そして住み込みで働くことが決まって数十分。
私は神楽ちゃんと新八くんと一緒に買い物に来ていた。

今はスーパーで夕飯の材料を調達しているのだけど、突然マズイことを思い出した。

真選組の屯所に荷物を置いてきてしまったのだ。
しかも荷物といっても財布やケータイの類ではなくて、下着である。

実は真選組でお世話になった3日間、さすがに同じ下着を着続けるのはちょっと気が引けたので、近藤勇さんからお金をお借りして、数日分の下着だけは買わせてもらったのだ。

そもそも荷物なんてその下着以外に無かったからすっかり頭から抜けてしまっていた。
そのまま総悟くんについて行って、さらにそのまま成り行きで万事屋さんにお世話になることになった。
だから、下着を寝泊まりしていた虎くんの部屋に置いてきてしまったのだ。
なんともマヌケである。

虎くん怒ってないかな。
今日はもう遅いし一人で辿り着けるかもわからないし、明日取りに行けばいいかな。


そして、虎くんと総悟くんから借りた15万円も返さなければならない。
万事屋さんで滅多にお給料は出ないって総悟くんは言ってたから、何か副業を探さないといけないかもしれない。

あ、あと近藤勇さんに借りた下着代も返さないと。


新八「……あ、あのー、名前さん?卵そんなに買うんですか?」

『……えっ?ああ、ごめんごめん!ちょっと考え事してた、あはは』


色々と考え事をしながら買い物をしていたせいか、8個入りの卵を6パックもカートに放り込んでいた。
さすがに42個は多すぎるので、3パック戻しておいた。


神楽「名前は料理できるアルか?」

『うん、できるよ!家事と芸事なら小さい頃から叩き込まれてるから、むしろそのくらいしかできることないかも』

新八「芸事?習い事ですか?」

『うん。お筝とか生け花とか舞踊とか。あとは手習いも』


私がそう言うと、新八くんと神楽ちゃんは目をぱちくりと瞬かせていた。


『どうしたの?』

新八「いや、その…名前さんってもしかして、良いとこのお嬢さんだったりします…?」

『えっ、そんなことないよ。大金持ちってわけでもなかったし。普通の家』

新八「あ、そうなんですね」


まあ、茜華の頭領の家ではあったけど。
森の奥深くにある里のせいか、みんな同じような暮らしをしていて、どこかの家が目立って裕福だったり貧乏だったりすることがなかった。

庶民的な金銭感覚は持っている方だし、むしろ自分は割とケチな部類に入ると思う。


すると、「あら、新ちゃんに神楽ちゃん?」という女の人の優しげな声が後ろから聞こえてきた。
振り返れば、そこには私と同じくらいか少し年上くらいの、美人な女の人が買い物カゴを片手に立っていた。


新八「あっ、姉上!姉上もお買い物に来てたんですね」

?「ええ。それより、そちらの方は…?お友達?」


どうやらこの美人な女の人は、新八くんのお姉さんらしい。
似てるか似てないかと言われたら、あんまり似ていないような気がするけれど。

そのお姉さんの視線は、もちろん私の方へ。


新八「あっ、この人は苗字名前さんです。ついさっき、万事屋の新しい従業員になって。住み込みで働いてくれることになったんです。名前さん、この人は僕の姉上です」

『初めまして、苗字名前です。ちょっとワケあって、万事屋さんで働くことになりました。これからよろしくお願いします』

妙「まあ、そうだったの!?初めまして、新ちゃんの姉の妙です。失礼ですけど、おいくつですか?」

『今年で18です』

新八「あ、そうだったんですね!」

妙「あら、じゃあ私と同い年だわ。よろしくね、名前ちゃん。困ったことがあったら何でも言ってね」

『わあ、ありがとう!こちらこそよろしくね、お妙ちゃん!』


ワケあって、とお茶を濁したけれど、お妙ちゃんは何かを察してくれたようだった。
快く手を差し伸べてくれて、握り返した手はとても温かい。

ここに来て出会った人はみんないい人ばっかりだけど、やっぱり神楽ちゃんとかお妙ちゃんとか、同性の友達の存在はすごく心強い。


妙「それより大丈夫?住み込みでって……銀さんに何かされてない?」

『えっ、坂田銀時さんってそういう人なの?』

神楽「正直怪しい所はあるアル」

『でも私、坂田銀時さんより結構年下だと思うけど…』

神楽「その辺はあんまり関係ないアル」

新八「色々信用無いからあの人。名前さん気をつけてくださいね、本当に」

神楽「酒入った時とかは本当に危険アル」

『そ、そうなんだ…』


さっき話した感じだと、ぶっきらぼうだけど優しそうな人な気がしたけれど…。
お酒の力は怖いんだね、覚えておかなきゃ。


妙「とにかく、何かあったらすぐに私の家に来なさいな。新ちゃん、よろしくね」

新八「はい、姉上」

『ありがとう、お妙ちゃん』

妙「いえ、いいのよ。じゃあ私、そろそろ行くわね」

『うん、またね』

新八「気をつけて帰ってくださいね」

妙「ええ、ありがとう」


お妙ちゃんはふわりと優しく微笑むと、卵を1パックカゴに入れてその場から去って行った。

すごくいい人だ、お妙ちゃん。
またお友達が増えて嬉しい。


新八「さ、僕らも買い物続けましょうか」

神楽「銀ちゃんがお腹空きすぎて骨になってるかもしれないアル」

『骨に!?それは大変、急がなきゃ!』

新八「……あの、名前さん?冗談ですよ?」

『あっ、なんだ。よかった』


とにかく、あとはお肉を買うだけだ。
あと、いちご牛乳とか言ってたっけ。
坂田銀時さんは甘い物が好きなのだろうか。


『坂田銀時さんってスイーツ好き?』

新八「好きですよ。あの人、パフェが大好物ですから」

神楽「糖尿病予備軍アル」

『あ、そうなんだ。じゃあ止めた方がいいなな…』

新八「どうしたんですか?」

『いや、私を置いてくれるお礼に何かスイーツでも買おうかと思って。神楽ちゃんと新八くんにも』

神楽「マジアルか!!食べたいアル!!ひゃっほーい!!」

新八「わあ、ありがとうございます!銀さんの分も買って帰りましょ、きっと喜びますよ!」

『うん!』


脳裏に浮かぶのは、坂田銀時さんの顔。
私を受け入れてくれた時の、真っ直ぐで優しい赤い瞳だった。

喜んでくれるといいな。
すき焼きも、スイーツも。



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