茜空に飛べ! | ナノ


3

部屋には名前も知らぬ万事屋三人衆と、私。
なにこれ気まずい。

 
?1「……え、えーっと……沖田さんが言ってた手がかりって何のことですか?」

 
気を利かせてくれたのか、メガネくんが慌てたように口を開いた。
多分間を持たせるために振ってくれたんだろうけど、その話題は重くならざるを得ない。

しかし聞かれてしまった以上は正直に答えた方がいいだろう。
 

『……私、兄を探しているんです。一緒に誘拐されて、私はなんとか脱出できたんですけど兄のことは助け出せなくて。だけど誰に誘拐されていたのかもわからなくて…。故郷の里からも江戸はかなり離れているし家族とも連絡が取れないから、自分で何とかするしかないんです。とりあえずはこの地に住んで情報収集から始めようと思って』

?1「それで仕事探しを…?」

『はい。身寄りが無いので』

 
兄を探すことは最優先、だけど……。

三人は困惑したような表情で顔を見合わせているし、このままここに置いてもらえるとは到底思えない。

そりゃそうだ、誰だってこんな正体不明の女と暮らしたくはないだろう。
万事屋さんからしてみれば、完全に厄介者を押し付けられている感じだろうし。

 
『……あの、突然押しかけてすみませんでした。やっぱりこの話は無かったことにしてください』

「「「……え、」」」

 
ここで生きていくには仕事と住む場所が必要だ。
だが自分の目的のために、誰かに迷惑をかけるのは嫌だった。

 
『迷惑かけてしまって本当にすみません。お話聞いてくださってどうもありがとうございました。私、これで失礼します』
 

総悟くんがテーブルに置いて行ったお金の入った封筒を手に取り、中から5万を引き抜いてテーブルに置いた。
迷惑をかけてしまったお詫びのつもりだった。

手元に残った10万と不足分の5万を何とかして総悟くんたちに返さなければ。
どうも上手くいかないものだと、内心ため息を吐きながら立ち上がる。

しかし、部屋を出ようとしたその時だった。
 

?3「オイ、ちょっと待て」

『……えっ?』
 

手に持っていたはずの封筒が、するりと消えた。
驚いて振り返れば私の背後には天パさんがいて、その手には私が持っていたはずの封筒が。

 
『……あ、ごめんなさい。お金足りませんでしたか?』

 
天パさんを見上げれば、赤い瞳と目が合う。
すると天パさんはニヤリと口角を上げて、ひらひらと封筒を振った。

 
?3「悪ィがうちは、依頼のキャンセルは依頼者本人からじゃねえと受けねえことにしてるんでね。っつーワケでキャンセル依頼は“却下”だ」
 

……え、キャンセルを却下?

私はきょとんとして天パさんを見上げた。
その間にも天パさんはそそくさと封筒を机の中に仕舞いに行っている。

どうすればいいのかわからず突っ立っていると、にこにこ笑顔のメガネくんとキラキラと目を輝かせたチャイナちゃんが駆け寄ってきた。
 

新八「名前さん、これからよろしくお願いしますね!僕は志村新八です」

神楽「神楽アル!こっちはペットの定春ネ!私、女の子の友達欲しかったネ!こんなむさ苦しい男どもに囲まれて、毎日その餌食になりかけてたヨ」

新八「ちょっと神楽ちゃん!?誤解を生む発言はやめて!?名前さん、全くもってそんなことはないですから!」
 

そこでようやく、さっきの天パさんの言葉の真の意味を理解した。
あの言葉は、つまり。

 
『……ここに、置いてくれるの……?』

 
私の言葉に、新八くんと神楽ちゃんは笑顔で大きく頷いた。

 
新八「困っている人を放っておけませんよ!お兄さん探しもしなきゃいけないんでしょう?」

神楽「あんなサイテー男の所になんて帰る必要ないネ!ここで私らと一緒に暮らすヨロシ!」

『……ほ、本当に?いいの?』

新八「もちろんですよ!ね、銀さん?」

 
新八くんの視線につられてそちらに目を向ければ、銀さんと呼ばれた天パの人は気恥ずかしそうに目を逸らしながら頭を掻いている。

 
銀時「……ま、そういうこった」

『!』

神楽「銀ちゃん素直じゃないアルな〜。ここにいろって言えばいいネ」

銀時「おいうるせえぞクソガキ」

新八「ていうか銀さん、そのお金ネコババしようとしてません?」

銀時「(ギクッ)」

神楽「あっ、ひどいアル!今日はそのお金ですき焼きやるネ!」

新八「あ、いいね!名前さんの歓迎会も兼ねて!名前さん、すき焼き食べれます?」
 

……視界が歪んで、新八君たちの顔がぼやけた。

グイッと手の甲で零れかけた雫をぬぐい、私は満面の笑みを浮かべた。
 

『うんっ!超大好き!』

 
心からの笑顔を浮かべられたのは、ひどく久しぶりな気がした。
 

『これからよろしくお願いします!家事ならなんでも任せて!他にもできることがあればなんでも!』

銀時「……おう。とりあえず飯頼むわ」

『はい!』
 

今までうまくいかなかったのは、この人たちに出会うためだったのかもしれない。
こんな温かい人達の所へ、神様が導いてくれていたのかもしれない。

万事屋さんといい、真選組の人たちといい、私は本当に恵まれている。

 
神楽「名前、一緒に買い物行くアル!かぶき町の女王の私が案内してあげるネ!」

『本当!?ありがとう!』

神楽「銀ちゃん、お金プリーズ!」

銀時「あ?仕方ねえな、いちご牛乳も忘れんなよ」

新八「いやこれあんただけの金じゃないですからね!?パチンコとかですっからかんにしないでくださいね!?」

銀時「あーあー聞こえねー」

新八「ちょっと、銀さん!?」

神楽「名前、行くアルよ!」

『うん!』
 

すごくにぎやかで、優しい万事屋さん。
ここで、私の新しい生活が始まった。
 


<< >>

目次

戻る
top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -