茜空に飛べ! | ナノ


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───真選組の屯所で生活を初めて3日が経った。

毎日朝から夕方まで仕事探しのために町中の店を片っ端から当たっているけれど、履歴書もろくに書けず家族と連絡すら取れない未成年の私を雇ってくれる場所なんて全く見つからなかった。

「夜のかぶき町は絶対に一人で行くな」と土方さんから釘を刺されているから夜は屯所で大人しくしているのだけれど、やっぱりこんな訳ありの身を雇ってくれる店なんて夜職しかないと思う。

もし今日の夕方までに仕事が見つからなかったら今日は夜も町に出て、そっちの仕事を探そうか。
正直できる気がしないけど、しばらくこの地で生きなければならない以上は仕方がない。

昼ごはんを屯所で食べ終えた私が再び町へ繰り出そうと草履を履いていた時だった。
 

藤堂「おっ、名前じゃん。もう休憩はいいのかよ?」

『あ、虎くん』
 

隊服を着た、虎くんこと藤堂虎之助くんがやってきた。

この三日間で仲良くなったのは虎くんと総悟くんだと思う。
同い年だと発覚するなり、虎くんは私に敬語と藤堂さん呼びをやめさせてきた。

初めは虎さんと呼ぶことにしようとしたのだが、「某テキ屋の放浪人みたいだからやめて」と言われたので虎くんと呼ぶことにした。

ついでにその成り行きで総悟さんのことも総悟くんと呼ぶことにした。
 

『うん。虎くんは巡察?』

藤堂「おう。どうだ、そっちは仕事は見つかりそうか?」

『全っっっ然。やっぱり身元が証明できないと厳しいみたい』

藤堂「そっか、そうだよな。お前身分証明書も住民票もねえんだもんな…」

 
虎くんは親身になっていつも私の相談に乗ってくれる、すごく優しい人だ。
虎くんと一緒にどうしようか考え込んでいると、別の足音が聞こえてきた。

 
沖田「あ、無職女」

『その呼び方やめて、総悟くん。これでもめちゃくちゃ頑張ってるの』
 

やってきたのは虎くんとは真逆の性格の総悟くんだ。
今日は非番なのか、隊服ではなく着物姿である。なんだか見慣れないというか新鮮だ。
 

沖田「まだ仕事見つからねえのかよ」

『だって私、身分証明ができないんだもん』

沖田「だったら町役場にでも行けよ」

『発行してもらえると思う?こんな正体不明の女』

沖田「まァ無理だろうな」

『だよね』
 

どうしたものか。
やっぱり私には体を売るしか選択肢はないのかもしれない。
 

『ねえ、この体売ったら一回いくら稼げると思う?』

藤堂「ちょっと待て何言ってんの!?早まるなよ!?」

沖田「マニア向けで二万五千」

『総悟くん酷い』

 
二万五千、しかもマニア向けて。
確かに絶世の美女ってわけじゃないけど、さすがにもう少し価値はあると思う。
 

『これでも私、結構スタイル良いんだよ!Eカップあるし』

藤堂「お前バカなのそういうこと簡単に言いふらすなよ!」

沖田「ただデカけりゃいいってもんじゃねえんでさァ。巨乳尚且つ美乳でハリがねえと。あとは尻もな」

藤堂「お前は何教えてんだよ総悟!」

 
ツッコミの虎くんは今日も大忙しだ。

 
藤堂「なあ名前、一旦考え直せって。そっちに手ェ出すにはまだ早えよ、きっと何か仕事見つかるって」

『でも今の私じゃまともな職に就けないんだもん』

藤堂「俺も巡察行くついでに知り合い当たってみるからさ」

『……腎臓ってなんで2つあると思う?』

藤堂「ちょっと待てそっちはもっとダメだバカ!!」

『冗談だよ』

藤堂「冗談に聞こえねーよ!」

 
さすがに臓器は売りたくない。
すると、「仕方ねえなァ」という総悟くんの面倒くさそうな声が聞こえた。
 

沖田「俺がとっておきの仕事紹介してやるよ」

『えっ、本当!?総悟くん!!』

藤堂「え、お前何か宛てあんの?」

沖田「まあそれなりにな」
 

総悟くんの紹介ならなんとかなるかもしれない。
だけど目を輝かせた私とは対照的に、虎くんはジトッとした目を総悟くんに向けてる。

 
藤堂「…おい、ちゃんとまともな仕事なんだろうな?風俗とかじゃねえよな?」

沖田「まともかと言われたらそうでもねえが、ちゃんと宿付き食事付きの昼職でさァ」

藤堂「おい、まともじゃねえって言っちゃってるよ」

沖田「体を売るような商売はしてねえはずだぜィ、給料は滅多に出ねえらしいけど」

藤堂「めちゃくちゃ闇深いよその仕事!!なんだそれ!?」

『やります!!紹介して総悟くん!!』

藤堂「名前!!?」
 

どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ総悟くん。
正直、衣食住を提供してもらえるなら給料なんてなくてもいい。
衣食住が給料でいいくらいだ。

 
沖田「じゃ、本人もこう言ってるんで連れていってくるぜィ」

藤堂「お前らマジかよ!?」

『お願いします総悟くん!行ってきます虎くん!』

藤堂「おい、マジで気を付けろよ!?お前自覚無いみてえだけどめちゃくちゃ騙されやすいからな!?やべえ所だったら遠慮しねえで戻って来いよ!?」

『はぁい』

藤堂「なんでこんなに呑気なのこの子」

 
虎くんはめちゃくちゃ不安そうにしていたが、私はそんな彼に手を振って、るんたるんたと総悟くんの後をついて行く。

これでようやく真選組のご厄介にならずに済みそうだ。
 


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