銀桜録 新選組奇譚篇 | ナノ


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それから名前が目を覚ますまでは一日とかからなかった。

起きた瞬間名前の視界に飛び込んできたのは仲間たちの顔。
体を起こした途端に近藤や沖田が突進するように抱きついてきて、再び布団にひっくり返った。

山崎がすぐに容態を確認してくれたが、奇跡的にも大事なし。
だが念の為、三日は部屋で安静に大人しくしているようにとのこと。

しかし名前は既にピンピンしていて、退屈でしかないらしい。


沖田「あ、こら。寝てなきゃ駄目でしょ」

名前「えええっ!だって体が鈍っちゃうよ、もう三日も寝たきりなんだよ!?」

沖田「寝たきりって、夜しか寝てなかったじゃない」


安静にと言われた期限の三日目。
沖田が見舞いにと部屋を訪れれば、首に包帯を巻いたその部屋の主はぴょんぴょんと飛び跳ねたり屈伸をしたり体を伸ばしたり。

初日はなんとか我慢していたようだが、痺れを切らしたのか昨日からこの調子だ。
どう見ても健康体そのものである。


沖田「金平糖持ってきたんだけど、大人しくしてない子にはあげない」

名前「すみませんでしたすみませんでした近藤名前はおとなしくします」


瞬時に運動を止めて布団に正座をする名前。
夢の中でもご飯を食べていた彼女の食い意地は侮れない (というより食欲にあまりにも忠実なだけだが)。


名前「そういえば、本当にみんなにも心配かけちゃったね。ごめんね」

沖田「全くだよ。昏睡状態なのかと思えば、「もう食べられない」とか寝言言ってたし」

名前「いやー、あまりにも大量のお寿司でさ……」


ぱくぱくと金平糖をつまみながらケラケラと名前は笑う。
今までとなんら変わらない笑顔に、言葉には出さずとも沖田は安心感を覚えていた。


名前「あ、そうそう。みんなもお見舞いに来てくれてね?さっき新八さんがお饅頭を四個持ってきてくれたの。それなのにあの人、自分で三個も食べて戻っていっちゃった」

沖田「何しに来たんだろうね本当に」

名前「でも土方さんよりは全っ然マシだよ、あの人報告書持ってきたの」

沖田「うわ、信じられない」

名前「ねー!」


見舞いの品にはやはり個性が出るらしい。
報告書を持ってきた土方に対して原田は団子、近藤は羊羹、千鶴は煎餅。

だが意外なものを持ってきた人物が一人。


名前「これ、一君がくれたの。可愛いよね」


枕元に置かれている折り鶴三羽。
これは斎藤からの見舞いの品であった。


名前「そういえば、一君の様子がちょっとおかしかったんだんだけど何か知ってる?なんかすごい目逸らされるんだよね……」

沖田「へえ、一君がねえ……」

名前「……あれ?そういえば私、なんか……何か忘れてるような……なんだったかなぁ」


沖田の脳裏に蘇るのは、あの日の記憶。
名前の蘇生を行った斎藤。
人命救助のためだったといえど、多少なりとも斎藤の方は気にしているらしい。
名前がそのことを知ればどんな顔をするだろう?

……いや、やめておこう。
ギクシャクする確率の方が圧倒的に高いし、そうなると修復が面倒くさい。


沖田「君が気絶してるかと思いきや呑気にグースカ寝てたんだから、一君怒っちゃったんじゃない?」

名前「うっそ、私のせい!?変な夢見てたから長引いちゃったのかも、あとで謝らないと…」


後に「お寿司の海で溺れてたの、ごめんね」と奇妙な謝罪を繰り返す名前と困惑した様子で固まる斎藤を発見し、沖田は肩を震わせて笑っていたという。

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