銀桜録 新選組奇譚篇 | ナノ


3

─── 夕餉時。
その話題は、沖田の一言で復活した。


沖田「……そういえば名前、これ何?」

名前「え?……って、うわあああっ!!?ちょっ、何で持ってるのそれ!!?」


食事の最中に沖田が懐から取り出して見せてきた物。
それは最早伝説級に下手な(これはもう下手と認めざるを得ない)、先程の名前の絵である。
その光景を見ていた原田と藤堂、永倉は、名前の絵の再来に思い切り吹き出した。


沖田「なんでって、君の部屋に沢山あったじゃない」

名前「なんで私の部屋に勝手に入ってるのかな!?」

沖田「君が部屋の障子戸を開けっ放しにしてるのが悪いんだよ、ご自由にお入りくださいって言ってるようなもんじゃない」


沖田は全く悪びれる様子はない。
思い返せばあの時、原田に担がれていたせいで障子戸を閉め忘れていたような気がする。
名前が睨みつけるのは、自分の向かい側の席で大爆笑している原田である。


沖田「それより、これ何の絵なの?地獄に落ちた人の末路?」

名前「じっ…!!?」

土方「ぶふっ……」

名前「ちょっと土方さん、なんでお味噌汁吹いてるんですか」


怒り狂う不動明王に大地の叫び、厄除け、そして地獄に落ちた人の末路。
土方の言う通り、最早ここまで来るとこれは才能なのかもしれない。


藤堂「総司、それは名前なんだってさ。自画像だって、ぶふっ」

沖田「……自画像……」

名前「……ねえ何その目。弱み見つけちゃった嬉しいな、みたいな目は」

沖田「あ、すごいね。よくわかったね」

名前「何年一緒にいると思ってるの」

沖田「嬉しいこと言ってくれるね」

名前「いい意味で言ってないよ?」


……一番厄介な人物に弱みを握られてしまったものである。
今後数ヶ月は揶揄われそうで、名前は溜息を吐いた。


斎藤「……斬新な絵で、良いと思う……」

名前「ありがとう、だけど肩震えてるよ一君。笑ってるよね?」


斎藤も、珍しく顔を背けて肩を震わせていた。
笑いを耐えている様子である。


原田「つうかお前、さっきは最高傑作だって自慢してきたじゃねえか。なのになんで恥ずかしがってんだよ?」

名前「当たり前じゃん、こっちは失敗したやつだもん!!」

藤堂「いやさっきのと全然違いわかんねえよ!?ほぼ同じだよ!?」

名前「平助酷い!!隙あり!!」

藤堂「え?…って、ああーーーっ!!!オレの沢庵!名前に沢庵盗られた!!」

永倉「名前が人の飯を盗むなんざ、明日は槍が降るな」

土方「おい、うるせえぞおまっ、ぶふっ……」

名前「私の絵を視界に入れる度に笑うのやめてください、土方さん!!」


……ちなみにその後、その絵は暫く沖田の部屋に飾られていたという。
そしてたまたまその部屋を訪れた平隊士によって、「沖田組長の部屋に呪いの絵が置かれている」と屯所中に広められるのはもう少し先の話である。


誰もが願っていた。
こんな風に、楽しく笑い合える日が続くことを。

─── しかし、新選組の運命を変える出会いは、もうすぐそこまで迫っていた。


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