銀桜録 新選組奇譚篇 | ナノ


2

原田「 ─── で、どうだったんだ」

名前「楽しかった」

永倉「いや、そうじゃなくてよ……」

名前「冗談だって」


藤堂と名前が茶碗を洗っていると、原田と永倉がやってきた。
勿論、千鶴に何か怪しい部分がなかったか名前に聞きに来たのである。


名前「全然怪しいところはないよ、本当に普通の女の子。すごい可愛い」

藤堂「ふうん。じゃ、とりあえずはそんなに気を張ってなくても大丈夫かもな」

名前「うん、監視も最低限でいいと思う。それよりも聞いて!千鶴ね、めちゃくちゃ可愛いんだよ」

藤堂「わかったって」

名前「いたっ」


コツッと藤堂に頭を小突かれ、名前は口を尖らせる。
なんとも呑気な彼女に、永倉は溜息を吐いた。


永倉「ったく、監視しに行って仲良くなって帰ってくるたァな……」

原田「まあ、此奴らしいっちゃらしいけどな」

名前「えっ、私は監視じゃないよ?監視ならずっと一君がしてくれてたし」

藤堂「え、そうなのか?」

永倉「そういや、飯の時斎藤もいなかったな」


名前が千鶴の部屋で食事をしている時、部屋の外には斎藤の気配があった。
斎藤自身は気配を消しているつもりなのだろうが、名前の域までくると分かってしまうものなのである。
当然千鶴は気づいていなかっただろうが、特に言う必要もないかと判断し、黙っていた。


藤堂「じゃあ何しに行ったんだよ?」

名前「何って、一緒にご飯食べる為だよ」

藤堂「……お前さぁ……」

名前「だって、考えてもみなって。今まで平和に暮らしてた女の子が寄る辺も無しにたった一人で京に来て、しかも男所帯の新選組で暮らすことになっちゃったんだよ?まだ十五歳だって言ってたし、一人じゃ不安に決まってるじゃん」

藤堂「……そりゃまあ、そうかもしんねえけど……」


やはり立場上、完全に千鶴を信用できないのだろう。
まだ初日だから尚更だ。


永倉「……お前さんの気持ちも分からねえわけじゃなえが……あんまり肩入れしねぇ方がいいぞ。いざって時に辛くなるのはお前さんなんだからよ」

名前「……うん、わかってる。気をつけるよ、ありがとう」


永倉を見上げて頷けば、わしゃわしゃと豪快に頭を撫でられた。
前髪が爆風に吹かれたようになってしまったが、手が濡れている為に直せない。


名前「……でもね、私があの子の傍にいるのは悪い事じゃないと思うの。万が一怪しい動きをしても止められるし、色々話をすればあの子の不安も紛らわせられるかもしれないし」

原田「ま、それもそうか。つうかそもそも、女が男に常に見張られてるってのはちょっと気の毒だしな」


原田の言葉に、名前はうんうんと大きく頷く。


名前「そうだよ!一君ならともかく、平助達みたいな助平な男が一日中千鶴ちゃんを見張るなんて危なすぎるよ」

藤堂「はあっ!?なんでオレが助平なんだよ!?そういうのは左之さん専門だろ!」

原田「専門って、お前な……。いいか名前、男は皆助平なんだよ」

名前「開き直らないでよ」

永倉「いやいや、実際そうだぜ名前。斎藤だってそうだろうよ」

名前「変な事言わないでよ、一君はそんな人じゃないもん」

原田「信じたくねえのは分かるけどよ、こればっかりは男の性だから仕方ねえんだ」

藤堂「おい左之さん新八っつぁん!!何教えてんだよ名前に!!つうか、一君が聞いてたらどうするんだよ!!」

斎藤「何やら俺の話をしているようだが、相応の覚悟は出来ているな?」


「「「「うわああああああっ!!?」」」」


土方「うるせぇ!!静かにしやがれお前ら!!!」




千鶴「(なんだか外が騒がしい……?)」



<< >>

目次
戻る
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -