銀桜録 新選組奇譚篇 | ナノ


1

ひょんなことから新選組と生活を共にすることになった少女、雪村千鶴。
新選組預かりとなった彼女だが、女性の存在は隊内の風紀を乱すということで、男装を続けることが生活の条件となった。
そして土方の小姓といっても、とりあえずは部屋に篭っていなければならないらしい。
要は軟禁である。
しかし外部の人間であるにしては、それは優遇されたものであった。


名前「不便があれば言うといい。その都度、可能な範囲で対処してやる」

千鶴「………えっと、斎藤さんの真似?」

名前「そう!どう、似てた?」

千鶴「凄く似てた」

名前「やった!あ、一君には内緒ね?怒られちゃうから」

千鶴「うん」


同じ性別と名前の人懐っこい性格の為か、今朝よりも千鶴には笑顔が増えてきている。
くすくすと笑っている姿はいかにも女の子という感じで可愛らしい。


名前「あっ、夕餉を持ってきたんだった。一緒に食べない?」

千鶴「わあ、ありがとう!実は凄くお腹空いてたの」

名前「朝から何も食べてなかったんでしょ?ごめんね」

千鶴「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


膳を向かい合わせに並べて、早速夕餉を食べる。
本当にお腹が空いていたようで、千鶴はもりもりとご飯を食べていた。
この調子ならば、気を張りすぎて食事が喉を通らずに倒れるような事は無さそうだ。


千鶴「少しだけ聞いてもいい?」

名前「うん、なあに?」

千鶴「名前ちゃんって、偉い人なの?」

名前「えっ、そんな事ないよ。どうして?」

千鶴「皆さんと仲良さそうだったから。えっと……副長の土方さんとか」

名前「……なんで一番最初に土方さん……?」


千鶴があのやり取りの何処を見て名前と土方の仲が良いと思ったのか、名前からすれば不思議で堪らない。
仲が悪い訳では無いが、どうせなら沖田や斎藤にしてほしかったというのが名前の本音である。

しかし千鶴から見れば、名前と土方の間には絶大な信頼がある事は明らかであった。
喧嘩するほど仲がいいというものだろうと千鶴はしっかりと理解しているのである。


名前「私は全然偉くないよ、あの中だと一番下」

千鶴「そうなの?」

名前「うん。新選組の隊士はそれぞれ小隊に所属しててね、一番組から十番組まであるの。あそこにいた兄様と土方さんと山南さん以外の人は、みんなその小隊の組長なんだ」

千鶴「そうなんだ」


千鶴は目をぱちくりと瞬かせて話を聞いていた。
彼女からすれば全く馴染みのない話だろう。
ついひと月前までは女子として穏やかに暮らしていた子だ。


千鶴「名前ちゃんは違うの?」

名前「うん、なんか私だけちょっと特殊でさ。副長補佐っていう役職なの」

千鶴「……えっ?それってやっぱり偉い人なんじゃ……」

名前「全っっっ然!名前で誤魔化してるだけで、要は土方さんの使いっ走りだもん」

千鶴「そ、そうなんだ……」

名前「土方さんの私の扱いは、そりゃもう酷いんだから!この間なんてね……」


いかに自分が土方に扱き使われているかを語り始めた名前に、千鶴は若干苦笑いを浮かべている。
しかし千鶴の顔色は、朝と比べればかなり良いものになっていた。
その後も話題は尽きることなく、食事が終わるまで会話は続いていたのである。

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