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文久三年 七月某日。
会津藩から浪士組に給金が出ることになった。
支給は数日後とのことである。
思わぬ朗報に隊士達は沸き立ったが、名前だけは首を傾げていた。
名前「お給金の話、有難いですけど随分と急じゃないですか?正直、前までは渋ってるとしか思えなかったのに……」
土方の部屋で仕事をしている最中に今朝の給金の話を思い出した名前は、休憩がてらそう切り出す。
すると、名前の方を振り返った土方は苦い顔をしていた。
土方「……やっぱりそう思うか」
名前「……何かあったんですね、その言い方は」
溜息を吐いた土方は、いつになく疲れ切っている様子であった。
土方「……芹沢さんが原因なんだよ」
土方の話によると、芹沢の押し借り紛いの資金稼ぎが会津藩の幹部達の耳に入ったらしく、かなりご立腹なのだという。
つい先日も芹沢は『鴻池』という店で店主を脅し、無理やり金を用意させている。
土方「今後は会津から扶持を払うから、強盗まがいの押し借りはするんじゃねえって命令されたんだ」
名前「ああ、どうりで……」
それならば合点が行く、と名前は頷いた。
ついにお上が動き出すまでの状況になってしまったようだ。
果たしてこれも芹沢の目論見だったのかどうか、名前の知るところではない。
土方「……頭が二人いるってのも厄介だよな。芹沢さんの行動が、そのまま浪士組の意志だって判断されちまう」
名前「……」
なんだかその発言が意味深なものに聞こえ、名前は土方をじっと見つめた。
しかし彼がそれ以上何かを言うことは無く、名前もそこから仕事を再開したため、必然的にその話題は途切れたのである。
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