銀桜録 黎明録篇 | ナノ


2

土方「……それから、今後は見回りに出る隊士を組ごとに分けようと思う。その方が何かと動きやすいからな。っつうわけで、今からその組をまとめる組長の名前を言っていく」


どうやら、また新たに組織の再編を行うらしい。
確かに今後隊士が増えた時の事を考えれば、少人数の組に分けられていた方が何かと都合が良いだろう。

土方は、組長の名前を順に呼んでいく。
沖田が一番組、永倉が二番組、斎藤が三番組、井上が六番組、藤堂が八番組、原田が十番組。
試衛館の面々は、名前以外の全員が名前を呼ばれた。
試衛館の者達の剣術は頭一つ分抜き出ているから、皆適任だろう。

……しかし。


土方「それから名前!今日からお前は副長補佐だ」


一瞬聞き逃しかけるほど、あまりにもさらりと告げられたそれは。


名前「……え?すみません、今なんて?」

土方「あ?副長補佐だっつってんだろ」


聞き返せば、土方はギロリと名前を睨んだ。


名前「えっ、何ですかそれ」

土方「そのままだ。今よりも内勤が増えると思ってくれりゃいい。まあ、言っちまえば俺の使い走りだな」

名前「え"っ」

土方「おい、なんだその嫌そうな顔は」


まさか女子である自分が役職を貰えるとは思っておらず、名前は驚愕した。
しかも土方の使い走りとかいう恐ろしい単語が聞こえてきて、思わず顔を引き攣らせる。


沖田「…うわあ…頑張れ」


『土方さんと一日中顔を突き合わせているなんて可哀想』とでも言いたげな目を沖田は名前に向けている。


名前「総ちゃん、多分私たんこぶまみれになるからお見舞いに来てね…!」

土方「待て、どんだけやらかすつもりなんだお前は」

沖田「お見舞いなら任せてよ。仕返しに二人でとんでもなく不味い料理作って土方さんに食べさせようね」

名前「何それ楽しそう」

土方「本人の前で堂々となんつう会話をしてんだお前ら!!」


何とも呑気な会話でほんの少し空気が和み、くすくすと笑い声が微かに上がっていた。
大きな溜息を吐いた土方だが、すぐに引き締まった表情になり、その瞬間にその場の空気にも緊張感が漂った。


土方「よし、お前ら!組長という立場なら隊士の見本になるように行動しろよ、いいな!」

「「「おう!!」」」


口ではああ言ったものの、土方は自分に気を使ってくれているのではないか、と名前は思う。
名前が一人だけ役職を貰えていない事を気にするのではないか、とでも土方が考えたのではないだろうか。


名前「……いいんですか、土方さん。私みたいなうるさいのを副長補佐なんて」


皆が去ってから問いかければ、土方は口角を上げた。


土方「だからこそだろうが。補佐ってのは文字通り俺らを『補う』為にいるんだよ。だったら常に言いなりの奴よりも、自分の意見を言える奴の方がいいだろうが。その方が視野も広がるしな」


一応、土方なりの考えはあったらしい。
しかし……そう言われれば言われるほどなんだか大役に思えてくる。
自分にそんな大役が務まるのだろうか、と。


土方「言っておくが、別に贔屓じゃねえ。お前の能力を買った上での采配だ」


まるで心の中を見透かされたようで、名前は思わず土方を見る。
照れくさいのか、土方は名前から視線を逸らしていた。
そんな彼に、隣にいた山南はくすくすと笑っている。


山南「期待していますよ、名前さん。よろしくお願いしますね」

名前「は、はいっ!!」


名前は慌てて頭を下げた。
ふた月ほど前に山南に言われた、『今のありのままの貴方を必要としている』という言葉を思い出す名前。
それを実感できて、内心では本当に嬉しかったのである。


土方「……それから、お前の仕事部屋は俺の部屋だからな」

名前「えええっ!!待ってください、それじゃ本当に一日中一緒じゃないですか!!」

土方「仕方ねえだろうが、部屋がねえんだよ!!んな露骨に嫌そうな顔をするんじゃねえ!!」


名前が副長補佐に任命されて早々に。
彼女の頭には早速土方の鉄拳が落ちてきて、初日からたんこぶができたのであった。

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