銀桜録 黎明録篇 | ナノ


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文久三年 五月二十八日。

名前達は広間に集まるように言われていた。
今集まれる近藤一派は既に待機しており、巡察に出ている者を待っているところだ。
どうやら、先日入隊した新入隊士の紹介をするらしい。

今日はたまたま巡察当番でなかった名前は、沖田の隣に座っていた。
そんな沖田が向けるジトリとした視線の先には、彼の右隣に座る井吹だ。


沖田「なんで君がいるの?浪士組の隊士でも何でもないのに来たんだね」」

井吹「知らないよ。一緒に屯所で暮らす仲間なんだから顔を見とけって近藤さんが」

沖田「ふうん」


聞いた割には全く興味無さげな沖田に井吹はムッと顔を顰めた。

この二人は、よく軽い口喧嘩をしている (といっても沖田が一方的に嫌味を飛ばし、それに対して井吹がムキになるという構図が殆どである)。
ひと月ほど前まではその口喧嘩を止めていた名前だが、今となっては何も言わなくなっていた。
慣れとは怖いもので、この二人の口喧嘩は名前にとって鳥のさえずり程度のものなのである。

そこへ、巡察から戻ってきたらしい永倉が広間へ姿を現す。
すると、永倉の姿を目にした新入隊士のうちの一人が声を上げた。


?「お久しぶりです、永倉さん!」

永倉「ん?……って、おお!おめぇ、島田じゃねえか!!」


どうやら新入隊士の中に、永倉の知り合いが居たらしい。
永倉に声をかけたのは、かなり体躯の良い青年だった。


土方「なんだ新八、知り合いか?」

永倉「ああ、江戸でな。心形刀流の道場で一緒だったんだ」

島田「島田魁と言います」


まさか京で再会し、共に浪士組で戦うことになるとは思っていなかっただろう。
何とも凄い偶然だ、と名前は島田の自己紹介を聞きながら考えていた。


土方「よし、次!」

山崎「山崎烝と申します。よろしくお願い致します」


次に自己紹介を始めたのは、いかにも真面目そうな、切れ長の目をした青年であった。


土方「確か、大坂の生まれだったな?」

山崎「はい。父は鍼医者をしていました」

土方「すると、医術の知識もあるのか」

山崎「多少は」

土方「そうか。いずれその知識も役に立ててもらうかもしれねえ」

山崎「はい!」


浪士組で医学の知識に長けている者は少ない。
恐らく彼は今後、重宝されることになるだろう。
土方の期待を受け、山崎は張り切ったように返事をした。


沖田「……僕、あの人とは合わない気がするな」


山崎の自己紹介を退屈そうに聞いていた沖田が、ポツリと小声で呟いた。


名前「もう、あんまりそういうこと言わないの」


口ではそう注意したものの、名前も実を言えば沖田と山崎は反りが合わなそうだと思っていた。
基本的には自由奔放で飄々としている沖田と、生真面目そうな山崎…見るからに彼らは正反対なのである。

その後も着々と自己紹介は続いた。


土方「 ─── よし、これで全員だな。一旦浪士組に入った以上、生まれや育ちは一切関係ねえ。武士として扱う。その覚悟はできているな?」

「「「はい!」」」

近藤「今後は、ここにいる隊士全員で力を合わせ、京を騒がせる不逞浪士達を取り締まっていこうと思う。暫くは諸君に不安な思いをさせるかもしれんが…。この問題は、近いうちに必ず解決してみせる。だから皆、よろしく頼むぞ!」

「「「はい!!」」」


土方と近藤の言葉は新入隊士を奮い立たせ、威勢のいい返事が響いた。
これで解散だ、と言いかけた近藤であったが、何かを思い出したように土方が止める。

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