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近藤「君達のお陰で、会津中将様より大変有り難いお言葉を頂戴することが出来た!今日は無礼講だ。好きなだけ飲んでくれ!」
その日の夜。
八木邸の広間に集まった面々に対して、近藤は満面の笑みを浮かべて宴会を開くことを宣言した。
酒飲み達の待ってましたと言わんばかりの歓声が上がり、早速酒樽が運び込まれて宴会が始まった。
名前はガバガバと浴びるように酒を飲む永倉達に酒を注ぐが、彼らの酒を飲む速さに苦笑いを浮かべた。
名前「もうちょっとゆっくり飲みなよ、明日辛くなるよ」
永倉「いいっていいって今日くらい!お前さんの腕が認められたんだから、飲まずにはいられねえだろ!」
名前「そう言ってくれるのは嬉しいけど、お酒は程々にねー?」
名前の腕が認められた、というのは上覧試合を終えて帰路に着こうとした時の話である。
会津公からのお言葉を預かってきたという役人に引き止められて話を聞けば、上覧試合に対するお褒めの言葉であった。
しかも、名前個人に対してのお褒めの言葉があったのである。
やはり上層の方では、女子が刀を差すのは如何なものかと話題になっていたらしい。
しかし今日の試合でその話題は払拭された。
会津公が直々に名前の腕を認める発言をなさり、京の治安維持の為に腕を活かしてほしいというお言葉を発せられたのだという。
これには名前よりもなぜか永倉達の方が喜んでいた。
それもあって酒が進むようだ。
名前は永倉や藤堂、原田に酒を注いでいたが、ふと少し離れた所にいる沖田に視線が移る。
沖田は近藤と話していた。
どうやら今日の試合を近藤が褒めているようで、沖田は近藤に頭を撫でられて嬉しそうな笑みを零しいている。
名前の視線に気づいたのだろうか。
不意に沖田が名前の方を見ると、近藤に何かを告げてから名前に向けて手招きをした。
素直に其方へ赴けば、近藤は嬉しそうな表情を浮かべて名前の肩に手を置く。
近藤「名前、よくやった!見事な月波剣だったぞ!お前の腕が会津公に認められたんだ、これほど嬉しいことはない!」
名前「えへへ、ありがとうございます!」
わしゃわしゃと豪快に頭を撫でられて、名前の髪は乱れた。
しかしそんな事など気にならないくらい、近藤に褒められたのは嬉しいことである。
土方「…まあ、それなりに良かったんじゃねえか」
沖田「あはは、土方さんってば素直じゃないなぁ」
土方「なんだと総司」
名前「もっと褒めてくれてもいいんですよ、土方さん」
土方「てめえは図々しいんだよ」
土方を揶揄う沖田と名前の表情はそっくりである。
そして名前は、土方の隣で酒を飲んでいる斎藤の元へいそいそと向かった。
名前「一君、一君!はい、どうぞ」
斎藤「ああ、すまぬ」
名前が徳利を差し出せば、少し微笑んで猪口を傾ける斎藤。
酒を嗜む斎藤は美しく、それだけで絵になっている。
名前はそんな彼を見て目を輝かせながら口を開いた。
名前「ねえねえ、一君の言う通りだったよ!いつも通りにやったら大丈夫だった!」
斎藤「…そうか。見事な一本だった」
名前「えへへ、ありがとう!なんかね、動きがちょっと遅く見えたんだよねえ」
試合中、名前が一瞬反応を見せた理由はそれであった。
相手の動きがゆっくりに見え、太刀筋まではっきりと認識できたのである。
土方「そりゃ、毎日総司や斎藤と稽古していたらそうなるだろうが」
名前「…あっ、そうか。総ちゃん達に目が慣れちゃったんですかね」
土方「まあ、相手も総司や斎藤と比べられたんじゃ、たまったもんじゃねえだろうがな」
どうやら相手の動きが遅く見えた理由は、名前の動体視力の向上にあったようだ。
最強の剣士とも謳われる沖田や斎藤の動きに慣れていれば、当然名前にも力がつく。
要は練習台に恵まれていたのである。
名前「もしかして一君、そこまで見抜いててあんな事を言ってくれたの!?」
斎藤「…どうだろうな」
名前「あっ、その顔はやっぱり見抜いてたんでしょ。凄いなぁ、相手を見ただけで力量がわかるなんて!私も一君みたいになりたいなぁ」
それは一見、さらりと流してしまいそうな会話だが…。
名前は、表情の変化が少ない斎藤の感情を読み解く事が上手くなってきている。
「それは○○の表情だね!」と明るく言っているが、正直周りの者からすれば何が違うのか全くわからない。
最早彼女の特技ではないかと沖田が思うくらいだ。
藤堂「名前〜、こっち来いよ!左之さんが腹踊りするって!」
名前「はーい、今行く!」
宴会の時、名前は大忙しだ。
皆に酒を注いでまわるだけでなく、こうして呼ばれることが多いのだ。
やはり親しい仲間内でも酒の席に女性がいるのといないのとでは違うのだろう。
名前が来れば早速原田がお約束の切腹話を始め、腹の真一文字の刀傷を見せながら腹踊りを始める。
今までに何度も見てきた光景だがやはりいつ見ても面白く、名前はからからと笑った。
名前「ぷっ、あはははは!」
永倉「やっぱり宴会にゃ左之の腹踊りだなぁ!」
原田「当然だ!」
酒も入って盛り上がっているようだが、今までに何度も見た光景。
土方や斎藤は呆れたような視線を原田達に向けている。
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