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藤堂「吐きそう」
原田「だからなんでお前が緊張してんだ」
控え場所からこっそりと様子を窺っている藤堂達。
未だ伝染した緊張が抜けないようで、藤堂は顔面蒼白であった。
というのも、名前と対峙する男がかなり体格のいい男なのである。
鍛え上げられた肉体が目立っており、いかにも力技を得意としそうな体格である。
例えるならば、芹沢と永倉を足して二で割ったようなものだ。
沖田「…大丈夫なんじゃない?」
名前と相手の男をチラリと見た沖田は、大して心配もしていない様子で言い放った。
藤堂「いやでも、いくら何でも体格差ありすぎじゃねぇ…?でかい猪と仔犬みてぇだ」
名前の身長は五尺二寸(157cm)ほど。
大して相手の男は六尺三寸(約190cm)はありそうな大男である。
大きな猪と仔犬、という藤堂の表現もあながち間違いではない。
永倉「確かにそうだが…まあ、力技に持ち込まれなけりゃ大丈夫なんじゃねえか?」
原田「ああ。だが早めに決着つけねえと名前が不利になるかもしれねえな」
おそらくあの男の一太刀をまともに食らえば、名前の体は簡単に吹っ飛ぶだろう。
いかに名前が攻撃を避けられるかが鍵になる。
藤堂「つうか、なんで総司はそんなに冷静なんだよ!?心配じゃえの!?」
沖田「全然。僕と一君が大丈夫だって言うんだから、大丈夫だよ」
藤堂「なんだそれ」
根拠の欠片もない説明に藤堂は呆れたような顔になった。
沖田「…っていうか、どっちかっていうと名前の方が猪じゃない?」
その言葉に、その場にいた全員が思い切り吹き出した。
相打ち覚悟で突っ込んできて反撃をする名前の戦い方は、まさに猪のような勢いなのである。
心当たりがあるせいか、土方や斎藤までもが沖田の言葉に肩を震わせていた。
そして、一方で名前はというと。
名前「(…筋肉は新八さんの方が凄いかな…?)」
などと考える余裕があるほど、先程とは打って変わって冷静であった。
いつものように木刀を構え、精神の統一を図る。
「第四試合…始め!」
「うおおおーーーっ!!!」
合図と共に激しい掛け声で木刀を振り上げる男。
名前を怯ませる為の声なのだろう。
しかし、
名前「(…ん?)」
掛け声ではなく、何かに気づいて名前の体がぴくりと反応した。
それとほぼ同時に、勢いよく振り下ろされる男の木刀。
…しかし。
名前「 ─── っ!!!」
「なぬっ、!!?」
男の木刀を難なく交わした名前。
その交わし方は息を飲むほど滑らかで、まるで波の引き際のよう。
男が体勢を崩したのを見逃さず、瞬時に胴に木刀を叩き込む。
それは、名前が最も得意とする『月波剣』。
一度瞬きをした後には全てが終わっている程に速い。
「そこまで!勝者、近藤!」
電光の如く終わった試合。
勝者は名前であった。
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