銀桜録 黎明録篇 | ナノ


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─── 文久三年 四月十五日。

浪士組一同は、早朝から広間に集められていた。


近藤「皆、聞いてくれ。明日、会津中将様が我々にご接見くださることになった。そこで、浪士組全員で京都守護職本陣へ出向くことにする」


思わぬ朗報に、途端にその場は騒がしくなった。


藤堂「すげえ!ついにオレ達も認められるってことか!」

永倉「ど、どうすりゃいいんだよ!?俺、着ていく物なんてねえぞ!」


自分達が仕える殿様にご接見する機会など、身分の低い者では一生に一度あるかないかのものである。
喜びと興奮が入り交じり、盛り上がり始めた。


土方「落ち着け、てめえら!!まだ話は終わってねえだろうが!」


話が進まないせいかここで土方の一喝が入ると、途端に皆は静まりかえる。


近藤「それでだな、せっかく松平中将様にお目通りがかなうのだからみんなで上覧試合を行おうと思うんだ」

原田「上覧試合?っつーと、殿様の前で試合をするってことか」

土方「ああ。ただ出かけて行って挨拶だけで終わっちまっちゃ、もったいねえからな」


確かにここで浪士組の剣術の腕を示しておけば、待遇が変わるかもしれない。
しかし土方の発言を聞いてあからさまに不機嫌そうな顔になった芹沢が、すかさず横槍を入れてくる。


芹沢「何故そんな面倒な真似をせねばならんのだ」

新見「そうですよ。会津藩は活動資金すら出さないというのに」

土方「汗を流すのは俺達に任せておいてくれ。局長二人の手を煩わせるほどの仕事じゃねえしな」


大して気にした様子もなく土方が切り返せば、芹沢はフッと鼻で笑う。
自分の役目でないとわかれば、それ以上口を出す気は無いらしい。


土方「試合の組み合わせはもう決めてある」


土方の言葉に、皆は緊張した面持ちになった。
殿様に自分の剣術を披露するのだ、緊張しないはずがない。


土方「まず第一試合は、俺と平助でやる」

藤堂「オレが、土方さんと…?」


藤堂が弾かれたように顔を上げた。
しかし「不服か?」と挑発するように口角を上げる土方に、藤堂はすぐに好戦的な笑みを浮かべた。


土方「で、第二試合は新八と斎藤」

永倉「斎藤か。なかなか面白え組み合わせじゃねえか」


永倉も藤堂と同じように好戦的な笑みを浮かべており、斎藤と戦えるのが嬉しくて堪らない様子である。
斎藤の口元にも小さな笑みが浮かんでいた。


土方「最後は山南さんと…総司、お前だ」

沖田「っ!」


名前を呼ばれた沖田は一瞬驚いたような笑みを浮かべた。
しかしすぐに、待ってましたと言わんばかりの目付きになる。

それにしてもよく考えられた順番だ、と名前は考える。
最初に副長である土方自らが登場し、浪士組の中でも特に威勢のいい藤堂と試合をする。
それにより活気ある印象を与えることができる。
その次は近藤一派の中でも抜きん出た実力者である斎藤と永倉。
最後は山南と沖田という、土方が剣術において最も信頼しているであろう二人。

全ては浪士組の実力、特に近藤一派の剣術の腕を見せるために仕組まれた巧妙な順番。
上覧試合の開催とその順番を考えたのは土方だろうと名前は推測し、口角を上げた。


近藤「我々が会津の方々にどう評価されるかどうかは、試合の内容何如にかかっているからな。気合いを入れて、稽古に励んでくれ!」

「「「おう!!!」」」


ようやく巡ってきた晴れ舞台、名を挙げる機会だ。
威勢のいい返事が、広間に響き渡った。

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