銀桜録 黎明録篇 | ナノ


5

名前「 ─── それで、後で兄様から聞いて分かったことなんだけどさ。総ちゃんが私に冷たく当たってたのは、私を巻き込まないようにするためだったんだって。私が総ちゃんと仲良くしてたら、私まで兄さん達に殴られると思ったんだって」

原田「…総司が、そんな事を…」


沖田が名前を突っぱねていたのには、しっかりと彼なりの理由があった。
沖田は最初から彼なりに、名前を守っていたのだ。
名前を守るため、彼は自ら犠牲となって孤独となる事を選んだのである。


名前「家族と離れ離れになって苦しんで、私を守るためにまた苦しんで…総ちゃんは、ずっと孤独だったの」


沖田はこの話を近藤にだけしていたらしい。
近藤からその話を聞いた時、名前は胸が張り裂けるような思いをした。


名前「…だから私、その時に決めたの。もう絶対に総ちゃんを一人にしないって。総ちゃんに孤独を感じさせないように、苦しい思いをさせないようにしなきゃって思ったの」

原田「…そうか」

名前「それなのに、私…今回は、全然気づけなかった」


普段飄々としていて掴みどころの無い沖田は、本心が分かりにくい。
それでも名前は、彼が感じる "孤独" を察知できる自信があった。

だが、その結果がこれだ。
自分の自信は完全に傲りであった。
長い時を共に過ごしたという自信が、今回は裏目に出たのだ。
彼を見ていたつもりになっていただけで、しっかり見ていなかった。
ちゃんと理解していなかった。


原田「…総司も、色々焦っちまってたんだな」

名前「…うん、そうだと思う」

原田「…だがよ、名前。それならそこまで気負う必要はねえと思うぜ。総司だって、お前とすれ違ったままなんて嫌だろうよ」

名前「…本当?本当にそう思う?」

原田「ああ」


名前は原田の言葉の本心を探るように、彼の瞳を見つめる。
そんな彼女の表情は原田を疑っているのではなく切羽詰まったものがあり、不安で堪らないという様子であった。

しかし、原田が力強く頷いたことでその表情が安心したように少しだけ和らいだ。
原田としては本心を言っているだけなのであるが、こういう時に原田の裏表の無い性格はもってこいである。


原田「総司も頭冷やせば少しは落ち着くさ、さっきは焦りが全面に出ちまっただけなんだろうよ。絶対にお前を嫌ったりなんかしてねえ、これだけは断言できる」

名前「…うん」


頭の中を渦巻いていた不安の内容まで言い当てられて、名前は少し驚きながらも頷いた。


原田「俺はお前が悪いとは思ってねえ。だが…総司とすれ違ってんなら、それを戻せるのはお前の方だと思うんだよ。だから…総司が頭冷やして話せる状態になったら、彼奴の所に行ってやってくれ。『大丈夫だ』って言って、彼奴を抱き締めてやってくれ。それだけで十分だと思うぜ」

名前「…うん、分かった。そうする」

原田「よし。…ま、もし気まずくて話せねえってんなら俺が間に入ってやるからよ」

名前「うん。左之さん、ありがとう」

原田「おう」


名前は、ようやく笑顔を浮かべた。
不安が消えて、安心したような笑顔だった。
原田はそんな彼女の頭をもう一度ぽんぽんと優しく撫でる。


原田「…そういや、皆お前を心配してたぜ。特に斎藤とかな」

名前「…えっ、一君が?」


突然出された意外な名前に思わず名前が反応すれば、原田は困ったような笑みを浮かべた。


原田「すぐそこの曲がり角でずっとうろうろしてたからよ、お前も行くかって誘ったんだが…。『彼女に何と声を掛ければ良いか、俺にはわからぬ』って言われちまってな。だが、ありゃすげぇ心配してたんだと思うぜ」


本当不器用な奴だよな、と原田は笑った。


原田「少し落ち着いたら、まず斎藤の所に行ってやれよ。きっと喜ぶだろうよ」

名前「う、うん!行ってくる!左之さんありがとう!」


そう言って名前はガバッと勢いよく立ち上がると、ばたばたと走って部屋を出て行ってしまった。
大急ぎで出て行った名前を、原田は呆気に取られて見ていた。


原田「…ったく、少し落ち着いてから行けっつったのに…」


本当に斎藤の事が好きなんだな、と原田は笑みを零す。
それと同時に、名前にそこまで一途に思われている斎藤を少しだけ羨ましく思うのであった…。

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