銀桜録 黎明録篇 | ナノ


1

沖田「 ─── 良かった、会えたんだね」


斎藤と名前が壬生寺に向かえば、そこでは既に沖田が待っていた。
沖田の姿を見かけると名前は「総ちゃん!」と嬉しそうな顔になり、斎藤は沖田の言葉に小さく頷いた。


斎藤「待たせてしまってすまない」

沖田「大丈夫だよ。で、どうだった?感動の再会は」

名前「えっ…」

斎藤「……」


にこにこと笑みを浮かべながら沖田が尋ねれば、途端に二人はそれぞれの反応を見せる。
名前はボッと火がついたように顔を赤らめ、斎藤は無言で沖田から視線を逸らしたのである。


沖田「(…この短時間で何があったの)」


まるで恋仲になったかのような初々しい反応であるが、二人に限ってそれはないだろうと沖田は即座に見抜いた。
名前は斎藤に恋をしてはいるものの、剣に生きる斎藤の為に友人の域を越えないように努めている事は沖田も知っている。
そして沖田は、斎藤が自分の中に芽生え始めている感情を全く自覚していない事にも気づいていた。
この現状で二人の関係性が変わる可能性は無いに等しいのである。

傍から見るとなんだか焦れったいものであるが、沖田は今後もそれを指摘するつもりはない。
何故なら、この二人の様子を一番面白がっているのは紛れもなく沖田だからだ。
実際、沖田以外の者が見れば誤解を招きそうな反応をする二人を見て、沖田は笑いを堪えるのに必死なのである。


沖田「…まあいいや。一君、早くやろうよ」

斎藤「…あ、ああ」

沖田「ちょうど良かった、名前は審判してくれる?」

名前「う、うん!そのつもり!」


途端にきびきびと動き出した二人を見て、沖田はまた吹き出しそうになったのであった。


その後程なくして、沖田と斎藤の試合が始まった。
どちらも手加減する様子はなく、木刀を振り上げる姿には気迫がある。
ぶつかり合う木刀の音は重く、空気を大きく震わせる。


沖田「っ、相変わらずだね。構えが左ってだけで打ち込みにくいよ」

斎藤「あんたのすり足も更に磨きがかかったようだ」

沖田「一君なら、京でも負け知らずだろうね!」


斎藤と木刀を交える沖田は、いつにも増して生き生きとしていた。
試衛館にいた者の中でも抜きん出た実力を持つ二人の勝負には惹き付けられるものがあり、名前は食い入るようにその試合を見つめていた。
絶え間なく動く木刀が描き出す線に目を凝らす。


名前「 ─── 一本!!」


久しぶりの二人の試合を制したのは、斎藤であった。
礼をして一息吐く二人に、名前はパチパチと興奮したように拍手を送る。


名前「相変わらず二人は凄いなぁ!思わず見入っちゃったよ」


賞賛の言葉を送る名前に、斎藤は律儀に頭を下げた。
しかしその一方で、沖田は自分と斎藤の木刀に交互に目をやり、なんだか不思議そうに首を傾げている。
どうしたのかと名前が尋ねるが、沖田は「なんでもないよ」と笑った。


名前「一君、一君!私もやりたいな!いい?」

斎藤「ああ、構わん」

名前「やった!総ちゃん、木刀貸して!」

沖田「はいはい。そんなに飛び跳ねてると転ぶよ」

名前「転ばないよさすがに!」


ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねながら沖田から木刀を受け取る名前。
木刀を握れば生き生きとするのは名前も同じである。
身なりは変わっても中身は全く変わっていない名前を見て斎藤は小さく笑みを浮かべ、木刀を握り直したのであった。

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