銀桜録 黎明録篇 | ナノ


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名前「 ─── 土方さん、お茶を持ってきましたよ」

土方「……おう、すまねえな」


朝から会津藩の重役との面会に行っていた土方。
つい先程戻って来た土方にお茶を持ってきた名前であったが、なんだか彼の表情が険しい事に気付く。


名前「……また何か言われちゃったんですか?」


お茶を啜りながら、土方の眉間に皺が寄った。
どうやら図星のようだ。
湯呑みを置いて名前を見た土方の表情は真剣で、その瞳も鋭い。
名前が思わず背筋を伸ばせば、土方は静かに口を開いた。


土方「……お前には先に言っておく。他言無用だ」

名前「はい」

土方「……会津藩から、俺達だけで新選組をまとめろと命令が下った」


名前の思考が一瞬停止する。
そしてその言葉は名前の脳内で、"芹沢を始末しろ" という言葉に書き換えられた。


土方「……意味はわかるな?」


どうやら自分の解釈は間違っていないようだ。
名前はゴクリと唾を飲み込んで、静かに頷いた。


土方「……決行は明後日の予定だ。詳しい事は今晩近藤さんや山南さんと話し合って決める。だから詳細は明日だ」

名前「分かりました」

土方「……幹部も一部しか参加させねえつもりだ、絶対に口外するな」

名前「はい」


一部の幹部のみが決行する、重要機密。
芹沢鴨の、暗殺。
名前に知らされたという事は、土方は名前も参加させるつもりなのだろう。

口が堅くて忠誠心も強く、腕が立つ。
この若さで臨機応変に対応ができ、精神面も強い。
土方がなるべく名前に重荷を背負わせたくないと思いながらも結果的に彼女を参加させてしまうのは、彼女のその資質にあるのだろう。
あの芹沢を暗殺するのだから、名前のような人物を傍に控えておきたいと土方が考えるもおかしくはない。


土方「……話は以上だ」

名前「分かりました。……私、これから綱道さんを探しに行ってきますね」

土方「ああ、気をつけていけ」

名前「はい。左之さんと行くので大丈夫です」


名前は静かに頭を下げると、土方の部屋を出る。

……ついにこの時が来てしまったか、というのが名前の本音であった。
本当は、同士討ちなどしたくない。
だがこれがお上からの命令ならば、そして土方達が決めたことならば。

自分の中で生じている割り切れない思いに、無理やり蓋をする。
自分はただ近藤達の命令に従って動けばいい。
それ以外は求められていないのだ。

庭の楓を見やる。
ひと月ほど前までは緑だった木々の葉は、殆どが橙色に染まっていた。
この葉が全て染る頃に、新選組は変わる。
残った緑を目に焼き付けてから、名前はその場を後にした。

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