銀桜録 試衛館篇 | ナノ


1

─── 名前が眠り続けて五日が経った。

現在は沖田と斎藤が名前の看病をしていた。
名前は昨日よりは熱が下がってきており、苦しげな表情を見せることもなく静かに眠っている。

沖田が名前の汗を拭う中、斎藤は彼女の小さな手をずっと握っていた。
彼女の手から、温もりが失われぬように。
彼女の手が冷たくなる未来を想像するだけで苦しかった。
気休めにしかならぬとは分かっているが、握らずにはいられなかったのだ。


斎藤「……」


斎藤は、後悔の念に苛まれていた。

彼女に想いを告げられたあの日、斎藤は応えることが出来なかった。
自分は刀に身を託すと決めている。
女と連れ添う事など、己の望む道ではないのだ。
彼女はその事を理解した上で、斎藤を好きだと告げてくれた。
何も求めないと口では言っていたが、本当は胸の張り裂ける思いをしていた事だろう。

自分が、名前の想いに応えられなかったから。
自分のせいで彼女がこんな風になってしまったのではないか。
そう思わずにはいられなかった。

しかし、彼女の想いに応えられない事には変わりはない。
自分はあの時、どうする事が正解だったのか。
斎藤には分からなかったのである。


沖田「……一君」


沖田に声を掛けられ、斎藤はハッと我に返る。
どうやら名前の手を強く握りすぎていたらしく、彼女の手が白くなってしまっていた。


斎藤「……っ、すまぬ」

沖田「…一君も、そんな悲しそうな顔するんだね」


我に返った斎藤が手の力を抜けば、沖田がへらっと笑って言った。
しかしその笑みは暗く、力無い。


斎藤「……俺とて、感情が無いわけではない」

沖田「あはは、分かってるよ」


そう言って沖田は名前の額の汗を拭う。
その頻度は昨日よりも減っているように思える。

すると、名前に向けられていた翡翠色の瞳が斎藤を捉えた。
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