銀桜録 試衛館篇 | ナノ


3

名前「…ねえ、一君」

斎藤「…なんだ?」

名前「私…一君の事が好き。三年前に貴方に助けてもらったあの日から、ずっと貴方の事が好きだった。きっと、最初で最後の恋だと思う」


澄んだ焦茶色の瞳が、何の迷いもなく想いを伝える。
彼女の言葉に、斎藤は切れ長の瞳を大きく見開いて固まった。
そんな斎藤を見て名前はふわりと微笑みながら、穏やかな声で言葉を続ける。


名前「だけど私、一君が剣に生きるって決めてる事はちゃんと知ってる。だから私は何も求めない。一君が私を好きになってくれなくても構わない。だけど…遠くから貴方を想うことは、許してほしいの」


自分の想いは報われなくてもいい。
ただ、貴方を愛していたい。
例え、二度と会えなくなろうとも。

それは、小さな少女から手渡された大きな愛。

彼女の想いを真正面から受けた斎藤は…悲痛な表情を浮かべた。
彼もそんな顔をするのか、と名前が驚いてしまう程苦しげで、切なげな顔だった。


斎藤「…名前…」

名前「っ、ごめん、それだけだから。じゃあまた明日ね、一君」


斎藤が彼女の名を口にすると、彼女は早口でそう捲し立てて逃げるようにその場を去って行ってしまった。

その場に残された斎藤は、栞に目を落とす。
そして、その栞に込められた想いを理解するのと同時に、何かに締め付けられたかのように胸が酷く痛んだ。

桜草の花言葉 ───
『初恋』『長続きする愛情』『叶わぬ初恋』


斎藤「名前…すまない」


静かな空間に響いたのは、そんな悲痛な声であった ─── 。
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