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藤堂・永倉「「 ──── はあぁぁぁっ!!?お見合いぃぃぃーーーっ!!?」」
藤堂と永倉の大きな声が道場に響き渡る。
普段ならそれに対して耳を塞ぐ沖田や原田、斎藤であったが、今回ばかりは衝撃のあまり耳を塞ぐことすら忘れていた。
名前が白状した内容。
それは、自分に見合い話が来たという内容であった。
昨日近藤達から告げられたのは、その事だったのである。
永倉「み、見合いって…嫁に行くのか、お前さんが!!」
沖田「ちょっと待って、相手は誰なの?」
名前「…鈴乃屋の長男って言ってた…」
藤堂「鈴乃屋!?鈴乃屋ってあの呉服屋の!?」
鈴乃屋とは、江戸の町中にある呉服屋である。
店の者達皆の気立てが良く、反物の生地や着物の仕立ても良いと評判の店であった。
そのためかなり儲かっているのだろう、店もなかなか大きい。
永倉「おいおい、玉の輿みてえなもんじゃねえか!」
沖田「…だけど、何で君なわけ?あれだけ大きい店ならもっと裕福な家の娘を選ぶでしょ」
名前「…なんか、私が商売してるのをたまたま見かけたらしくて…。それで、なんか…一目惚れ?…されたみたい。兄様と父様の所に、その人が直談判しに来たんだって」
沖田「…ふうん」
原田「そりゃすげぇ話だな…。中々男気ある奴じゃねえか」
藤堂「…名前が結婚…なんか、信じられねえ…」
名前は恥ずかしいのか、成り行きを説明する時は真っ赤な顔になってしまっていた。
原田と藤堂はあんぐりと口を開けて驚いているし、永倉は何やら嬉しそうな表情だ。
沖田は何故か不機嫌そうな様子である。
斎藤はいつも通り無表情だった。
原田「まあ、お前ももう十七だからな…。何もおかしい話じゃねえな」
沖田「…だけどお見合いって事は、まだ結婚するって決まったわけじゃないんでしょ?どうするの?」
沖田が先程から不機嫌なのは、名前の見合い話に気乗りしないからである。
一番の親友で良き理解者でもある彼女が、この道場から居なくなってしまうのが寂しいというのもある (これは絶対口にはしないが)。
しかし沖田が一番に思うのは、名前が斎藤を慕っている事であった。
あれ程頑張って仲良くなって想いを告げると意気込んでいたのに……。
良い雰囲気が漂っている事はあっても、肝心の斎藤が名前をどう思っているのかは謎のままであり、未だその先へは進展していない。
それなのに、この見合い話を受ければ名前は斎藤から引き離される事となるのだ。
沖田の言葉に、名前の瞳が揺れる。
しかしそれは一瞬の事で、名前はふわりと笑みを浮かべた。
名前「…私は、受けようかなって」
沖田「……」
永倉「そうかそうか!そりゃ良かった!近藤さんも喜ぶだろうなぁ!」
藤堂「すっげぇ!あっちの一目惚れならもう結婚じゃん!」
名前の言葉に、永倉と藤堂は喜んだ。
嫁ぎ先としてはかなり良い場所だろうし、可愛い妹分が食うに困らず幸せになれる事が嬉しいのだろう。
名前が先程まで思い詰めていた様子だった事はすっかり忘れ、喜んでいた。
一方、沖田の脳内では全てが繋がる。
先程の揺れた瞳…彼女は、本当は嫁ぎたくなどないのだと。
だから思い詰めたような表情をしていたのだと、沖田は全てを悟った。
名前の斎藤への想いを知る原田も、内心は喜んでいいものかと複雑であった。
そして彼女の想い人である斎藤は、相変わらず無表情である。
だが斎藤はじっと名前を見つめていて、彼は一体何を思っているのか ────。
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