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──── 文久元年 十二月。
障子戸を開けると眩い光が視界を覆い、思わず目を細める。
そこには、白銀の世界が広がっていた。
藤堂「名前!!雪だぞ、雪!!」
名前「わああっ!!やったぁ、積もってるー!!」
*****
原田「…犬だな」
沖田「…犬だよね」
沖田と原田は、目の前の光景を見て同時に呟いた。
彼らの視界に映っているのは、降り積もった雪に大はしゃぎしている名前と藤堂だ。
二人はまるで犬のように、元気に庭を駆け回っていたのである。
名前「あっ!おはよう総ちゃん、左之さん!」
藤堂「おはよう二人とも!」
原田「おはようさん。朝から元気だな、お前らは」
二人は沖田と原田に気づいたようで、ぶんぶんと大きく手を振っている。
その様子を見て、沖田は驚いたように目を見開いた。
沖田「ちょっと名前、なんでそんなに薄着なの」
名前「えっ?」
沖田「平助はともかく、君は駄目。女の子なんだから」
名前「もぎゃっ…!?」
沖田は着ていた褞袍を脱ぎながら名前に近付いていき、バホッと被せて名前を包み込む。
綿の入った沖田の大きな褞袍は、名前の小さな体を頭からすっぽりと覆った。
顔まで隠れてしまいモゾモゾと動いて顔を出せば、困ったように細められた翡翠色が此方を見下ろしていた。
名前「駄目だよ、総ちゃんが風邪引いちゃうよ」
沖田「僕は君と違って雪遊びはしないから大丈夫」
藤堂「ははは、なんだか布団着てるみてぇだな」
名前「総ちゃんの褞袍大きいんだもん…」
沖田「君の体が小さいんだよ」
藤堂「こういう妖怪いそうだよな」
沖田「妖怪 褞袍猪女 ?」
名前「酷くない!!?」
藤堂「ぶふっ…!」
名前「こら笑うな平助!!」
頬を膨らまして怒れば、沖田と藤堂はカラカラと笑う。
原田もくつくつと笑いながら三人の元へとやって来た。
原田「名前、裾が地面に付いてるぜ」
沖田「ちょっと、濡らさないでよ」
名前「わっ、ごめん!」
名前は慌てて褞袍の裾をたくし上げる。
しかしかなり大きいようで、裾を持ち上げても後ろの方は雪に付きそうになっていた。
それを見た原田は、何かを思い付いたように名前に手を伸ばす。
原田「仕方ねえな。よいせっ、と」
名前「んっ!?あわわわわっ!!」
突如ふわりと浮いた、名前の体。
裾が地面に付かぬよう、原田が名前を軽々と抱き上げてしまったのである。
まるで幼子が父親に抱き上げられているような光景だ。
名前「ひいぃっ!高い!!落ちる!!」
原田「落とすわけねえだろ、心配すんな」
藤堂「うわあ、左之さんすげえ…」
沖田「左之さん力持ちだ」
原田「此奴は軽いからな」
原田の逞しい腕は褞袍に包まれた名前の体をしっかりと支えており、寧ろ安定感すらある。
恐る恐る原田に体を預ければ、彼の優しい琥珀色の瞳と目が合った。
そのまま辺りを見渡せば、高さが違うだけでいつもと異なる景色に見えてくる。
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