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──── 文久元年 十月。
木々の緑はいつの間にか紅く染まり、江戸の町は鮮やかに彩られていた。
冷たい風が時折吹き抜ける中、試衛館の庭からは白い煙がもくもくと上がっている。
勿論、火事ではない。
沖田「…そろそろ良いんじゃない?」
名前「うん、そうだね!」
二人の視線の先には紅や黄色、橙色が混じり合う枯葉の山。
煙はそこから上がっていた。
名前は、ふぅ、と小さく息を吐く。
そして。
名前「みんなー!焼き芋できたよーっ!!」
名前の明るい声が、秋晴れの空に響き渡った…。
*****
藤堂「 ─── んーっ!美味えー!!」
井上「体が温まるねぇ」
焼きたての芋を、はふはふと頬張る。
今日は試衛館の皆で昼から焼き芋をしていた。
昨日試衛館に来客があり、お土産にと大量の焼き芋を近藤が貰ったのだ。
焼き芋は腹を満たせるだけではなく、体の芯から温まることが出来るため、秋から冬にかけての庶民の味方である。
名前「うあちっ」
沖田「あはは、猫舌」
名前「違うよ!」
ふーふーと息を吹きかけて齧りついては、「あちっ」と悲鳴を上げて焼き芋を口から離す名前。
先程からそれを何度も繰り返しており、どうやら彼女は本当に猫舌のようだ。
すると、原田に永倉、藤堂と斎藤が二人の元へとやって来る。
原田「名前、ちゃんと食ってるか?たらふく食っとけよ」
沖田「左之さん、名前は猫舌だから食べるに食べられないんだよ」
名前「なっ、食べれるよ!全部食べてやるし!」
沖田の言葉に向きになった名前はガブッと思い切り齧り付き、焼き芋を頬張る。
が、やはり相当熱かったようで口をパクパクさせていた。
名前「あわわわっ」
沖田「ぷっ、あはははは!口から湯気吐いてる」
藤堂「はははっ、馬鹿だなーお前」
名前「酷い平助!」
永倉「名前も平助だけには言われたくねえだろうな」
藤堂「酷ぇ新八っつぁん!」
斎藤「…この芋は美味だな」
原田「ああ、美味えな」
のんびりとした時間が流れる。
焼き芋を頬張りながら仲良くはしゃぐ皆を嬉しそうな表情で見ているのは近藤だ。
そんな近藤の様子に気づいた名前は、彼の元へと駆け寄った。
名前「兄様ー!このお芋、凄く甘くて美味しいです!」
近藤「ああ、そうだな!後でまた礼を言わねばな。それよりも、この芋は名前と総司が焼いてくれたのか!」
名前「はい!総ちゃんも張り切ってましたよ、兄様に美味しい焼き芋食べてもらおうって」
沖田「近藤さん、美味しいですか?」
近藤「ああ、美味いぞ!格別だな!」
うんうん、と笑顔で頷いている近藤を見て、名前と沖田は顔を見合わせて笑った。
沖田「あ、土方さんはそこの焦げたやつでも食べておいてください」
名前「ぶふっ……」
土方「おい」
沖田「あははっ、冗談ですよ」
土方「お前の冗談は冗談に聞こえねえんだよ」
沖田と土方のやり取りに名前は肩を震わせながら、縁側に腰掛ける近藤の左隣にちょこんと座った。
それを見た沖田は、近藤の右隣に腰掛ける。
この三人が並ぶと、平和を絵に描いたような、ほのぼのとした光景になる。
その三人の間に流れる空気は周りをほっこりとさせるのだ。
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