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そしてそろそろ刻限だろうと辺りが騒ぎ出した時。
空に響く口笛のような音と、滝登りする白色光。
それはよく晴れた夜空を覆い尽くす花となり、大きな音を轟かせた。
ついに花火が始まったのだ。
藤堂「おおっ!きたきたー!」
永倉「始まったな!」
周囲の興奮も最高潮となった。
夜空に一つずつゆっくりと大きな花が咲いていき、轟音が空気を震わせ、橙色の光を散らす。
花びら一枚一枚が見事な輝きを見せるが、それもほんの一瞬。
夜空に咲く刹那の花は、夢のように儚く消えていくのだ。
ふと、斎藤は隣にいる名前を見る。
彼女は瞳を大きく開けて、瞬きすらも忘れた様子で空を見つめていた。
空に花が咲く度に、焦茶の瞳は橙色に染まり、飴細工のようにきらきらと輝いている。
…綺麗だと、思った。
煌めく火の粉が散った時、焦茶に戻った彼女の瞳が斎藤を捉える。
切れ長の蒼と、硝子玉のように丸い焦茶がぶつかった。
名前は大きな瞳を細めると、穏やかな笑みを浮かべた。
名前「綺麗だね」
細められた焦茶が、再び橙色に染まる。
斎藤「…ああ、そうだな」
僅かに微笑んでそう告げた斎藤の瞳が映すのは、刹那的に何度も橙色に染まる少女なのであった ───。
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