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──── 二人が歩くのは、人通りや灯りも少ない道。
その中を名前は、斎藤に手を引かれながら進んでいた。
…先程までは全く気にならなかったのだが、よく見れば斎藤に手を握られているではないか。
その事は、名前の顔をカッと熱くさせた。
しかし斎藤は至って平然として歩いている。
恐らくそれは、名前をそういう対象として見ていないという証であろう。
道のりはまだまだ長い、と名前が内心溜息を吐いた時である。
突然斎藤が、ぴたりと足を止めた。
名前「…一君?」
自然と名前もそれに合わせて足を止める。
不思議に思って名前は斎藤の顔を見上げるが、辺りが暗いせいか彼の表情はあまりよく見えない。
斎藤「…あんたに話がある。聞いてくれるな?」
名前「話…?うん、なあに?」
ようやく目が慣れてきたようで、薄らと斎藤の顔が見えた。
ぼんやりと見えるその表情は、いつもと変わらないように見える。
話とは、一体何だろうか。
斎藤「…あんたの…今宵の、出で立ちについてなのだが…」
名前「…あっ、この浴衣の事?この浴衣、凄く綺麗だよね。私みたいな田舎娘じゃ釣り合わないや」
斎藤「…い、いや…その…」
斎藤が口下手である事は名前もよく知っている。
そんな時、名前は必ず斎藤の言葉を待つ。
しかし、今の斎藤はいつも以上に口篭っているように思える。
すると、漸く何か意を決したように蒼い瞳が名前に向けられた。
斎藤「…に…」
名前「…に?」
何かを言いかけた斎藤。
しかし名前が首を傾げると、真っ直ぐな蒼い瞳が途端に揺らいだ。
斎藤「……に、荷物を持とう」
名前「…え?あっ、うん!ありがとう」
名前の持っていた団子の包みを受け取る斎藤。
…それで、話とは何なのだろう。
名前「…あの、一君?それで、話って…」
斎藤「っ!…い、今のが話だ」
名前「…えっ、今のが!?前置きが随分と深刻そうだったけど、本当に今の!?」
斎藤「…っ、早く行くぞ」
名前「えっ、一君!?」
名前の手を握ったまま、再び足早に歩き出す斎藤。
ズンズンと進んでいく斎藤に、名前は慌ててついて行く。
…だが、迷子防止とは言えども手を握ってもらえたことは、名前にとって何よりも嬉しくて。
─── 今日だけ…少しだけなら、いいよね。
名前は、きゅっと彼の手に自分の指を絡める。
彼の温かい体温が、名前の手を通して伝わる。
バクバクと、心臓が暴れていた。
…先程よりも少し強い力でしっかりと握り返されたように感じるのは、名前の気の所為なのだろうか ─── 。
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