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藤堂「 ─── なあなあ名前!見ろよ、この飴細工すげえ!!」
名前「わあっ、本当だ!可愛いー!」
立ち並ぶ屋台に大興奮してはしゃいでいるのは藤堂と名前である。
そして年頃らしく楽しんでいる二人を後ろから眺めているのは、残りの大人組だ。
永倉「…なんつーか、こう…歳の離れた弟と妹を見てる気分だぜ」
土方「全くだ。…おい名前、平助!あんまり騒ぎすぎんなよ」
名前・藤堂「「はーい!」」
土方「ったく、本当にわかってんのか彼奴らは…」
原田「まあまあ、今日くらい良いじゃねえか」
溜息を吐いている土方の肩を、原田がぽんぽんと叩く。
土方は保護者のような気分を味わっているのだろう。
原田「…そういや、斎藤は全然騒がねえよな。平助と同い年なのによ」
永倉「お、そう言われてみりゃそうだな」
原田の言葉に、皆の視線が斎藤に向けられる。
いつでも冷静沈着で寡黙な斎藤は大人びて見え、藤堂と同い年には全く見えない。
斎藤「…俺は…あのように飛び回るのは苦手な故…」
原田「飛び回るって……って、確かに飛び回ってんな、彼奴ら」
原田の視線の先には、ぴょんぴょんと飛び跳ねている名前と藤堂の姿があった。
沖田「…一君がはしゃいでるのって全然想像つかないや」
原田・永倉「「確かに」」
斎藤が藤堂のように騒いでいたとすれば、何かおかしな薬を飲まされたのかと疑ってしまうだろう。
……いや、薬を飲まされたとしても斎藤ならば冷静さを保てそうだ。
そんな想像をして、沖田達はケラケラと笑う。
一方名前と藤堂はというと、屋台に並ぶ様々な品に目を輝かせていた。
寿司の屋台も珍しく出ていたようで、寿司が好物である藤堂は特に目を輝かせている。
美味しそうだね、と言い合っているうちに土方達が二人を追い越していたようだ。
土方「おい、お前ら!さっさと来い、はぐれるぞ!」
藤堂「あっ、悪ぃ悪ぃ!今行く!名前、行こうぜ」
名前「うん!」
土方の声が聞こえて、名前は先に走り出した藤堂の後を追う。
しかし、その時である。
名前とすれ違った女性の着物の袂から、ばさりと手拭いが落ちた。
そういうことは決して見て見ぬふりをしない名前。
手拭いを拾うと、持ち主の女性を追い掛けて肩を叩いた。
名前「あの!これ、落としましたよ」
「あら!どうもありがとうございます」
名前「いえいえ!」
ふわりと笑う浴衣姿の美しい女性。
その隣には柔和な顔付きをした夫らしき人もいる。
名前にお礼を言った女性は、その男性と仲睦まじげに歩いて行った。
最近夫婦を見ると何だか羨ましく思ってしまうのは、名前の中の秘密である。
さて、皆の所に戻ろうかと振り返った時だった。
名前「……あれ?」
藤堂達の姿が見えない。
一番背が高く見つけやすい原田の姿を探すが、全く見当たらなかった。
慌てて前へと進むが、それらしき姿は無い。
名前「…え…どうしよう…」
まさか、この歳で迷子になるなんて。
人混みに揉まれながら、名前は途方に暮れるのであった……。
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