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──── 四半刻程経った頃。
松「お待たせいたしましたー!」
お松の楽しげな声が聞こえてきた。
皆が声のした方を向くと、そこには。
名前「…えへへ。どうかな」
縹色を基調とした地に、紫陽花の絵柄が散りばめられた浴衣。
髪には朱色の花簪が差してあり、花飾りがしゃなりしゃなりと揺れる。
唇には薄く紅が引かれており、艶やかだ。
予想以上の美しさに、皆はポカンとして名前を見つめていた。
完全に予想外だったのだろう、土方までもが目を見開いてそのまま固まっている。
そんな中で、一番最初に口を開いたのは沖田であった。
沖田「…馬子にも衣装?」
名前「ちょっと!第一声がそれ!?…いや、こんな素敵な浴衣だし私なんかじゃ釣り合わないのはわかるけどさ…」
沖田「ちょっと待ってよ。ごめんごめん、今のは嘘」
沖田は笑いながらそう言うと立ち上がり、名前へと近づく。
そしてその色白な頬を優しく撫でた。
沖田「良いじゃない。凄く綺麗だよ、名前」
名前「えっ…あ、ありがとう…」
珍しく沖田に褒められ、名前はタジタジだ。
先程は文句を言ったものの、いざ真正面から褒められるとどう反応していいかわからないものである。
すると、藤堂達からも続々と声が上がった。
藤堂「確かに!すっげえ可愛いな、名前!!」
永倉「おお、一瞬見惚れちまったぜ!」
原田「ああ。良く似合ってるぜ、綺麗だ」
名前「えへへ…ありがとう」
口々に褒められ、名前は照れくさそうに含羞んだ。
その頬が赤くなっているのは頬紅のせいではないだろう。
沖田「あれー?土方さん、何で黙ってるんです?照れてます?もしかして照れてるんですか?」
土方「あぁ!?んなわけねえだろうが!…まあ、似合ってんじゃねえか」
名前「やったぁ!ありがとうございます!」
沖田「えー、それだけ?可愛いって言ってあげればいいのに」
土方「うるせえ!おいお前ら、あんまり長居しても悪いだろうが。そろそろ行くぞ」
沖田「そうやって話を逸らすんだから」
土方「うるせえ!」
そう言ってズカズカと大股で店を出る土方。
名前もお松にお礼を言い、慌ててその後を追いかける。
原田や永倉、藤堂もその後に続いた。
沖田は最後に、斎藤と共に店を出る。
チラリと隣を見る沖田。
彼の隣を歩く斎藤の蒼い瞳は、何処かを見つめていて。
その視線の先には、楽しげに原田や永倉と話している名前。
沖田「(…結構考えてる事わかりやすいんだなぁ、一君って)」
しかし沖田は斎藤からすぐに視線を外すと、楽しげにはしゃぐ名前を見て満足気な笑みを浮かべたのだった……。
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