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そして暫くすると、嬉しそうな顔の名前が両手に三つの包みを抱えて団子屋から出てきた。
どうやら団子を沢山買ってきたらしい。
土方「随分買ってきたな。そんなに食えんのか?」
沖田「名前なら食べれますよ、猪だから」
名前「ちょっと総ちゃん!!一人で食べるわけないでしょ、皆で食べるの」
藤堂「…えっ!?オレらの分も買ってきてくれたのか!?」
藤堂の言葉に、名前は「え?」と目を瞬かせた。
名前「当たり前じゃない!皆で食べた方が美味しいに決まってるじゃん。花火見ながら一緒に食べようよ!」
永倉「名前…お前さんは本当に…良い子に育ってるなぁ…!」
原田「なーに泣いてんだ新八。名前、ありがとな」
名前「うん!」
沖田「…本当、君ってお人好しだよね」
土方「全くだな。…名前、ありがとよ」
名前「はいっ!」
……これが、名前が皆から好かれる理由なのだろう。
そんな事を思いながら名前を見つめているのは斎藤である。
名前は無意識なのだろうが…彼女にとっては自分より、皆の事が一番なのである。
皆の喜びが、彼女の喜びなのだ。
土方「…そういう所が近藤さんにそっくりだよな、お前は…」
名前「…えっ?土方さん、何か言いました?」
土方「何でもねえよ」
名前「そうですか?…あっ、ねえねえみんな!この黒豆きな粉ね、新作なんだよ!すっごく美味しいの!」
藤堂「えっ、そうなのか!?早く食いてえな!」
沖田「僕もこの間食べたけど凄く美味しかった」
原田「そりゃ、楽しみだな」
土方も、同じような事を考えていたのだろうか。
彼の呟きは名前に届くことは無かったが、しっかりと斎藤には聞こえていた。
土方が穏やかな瞳を名前に向けていた事に気付いたのは、斎藤だけだったのである。
すると、「名前ちゃん!」とお店からお松が少し慌てたように出てきた。
松「良かったわ、間に合って!」
名前「え?あっ、すみません!もしかして私、お金払い間違いました!?」
松「いいえ、まさか!そんなんじゃないのよ」
そう言ってお松はニコリと名前に向かって微笑む。
松「名前ちゃん、もし良かったら私の浴衣を着てみない?」
名前「えっ!?浴衣…ですか?」
松「ええ。私のお下がりになっちゃうけど、それで良かったら。せっかくのお祭りだもの、今日くらい着飾っちゃいましょうよ!髪飾りや化粧道具も貸すわ!」
名前「えっ…で、でも…流石に悪いですし…」
松「あら、遠慮しなくてもいいのよ?」
名前は戸惑ったような表情を見せ、横にいた土方の顔を見上げる。
土方「よろしいのですか?」
松「ええ、勿論!商売が忙しくて私は着る時間が無くってねぇ。箪笥の肥やしになるよりも、可愛い名前ちゃんに着てもらえた方が良いに決まってるわ!」
土方「ありがとうございます。…名前、せっかくだ。頼んだらどうだ?」
名前「はい!じゃあ、お願いします!」
松「任せて!腕が鳴るわねぇ!皆さんも中で待っててくださいな」
土方の許可を得て、安心したように頷いた名前。
そして彼女は再びお松と共に団子屋の中に入って行ったのであった。
お松の言葉に甘えて土方達も店の中で待たせてもらうことにし、中に入って席に腰掛ける。
藤堂「名前の浴衣かぁ!いつもの着物か道着姿しか見たことねえから想像つかねえな」
原田「彼奴、別嬪だからな。きっと綺麗だろうよ」
永倉「だな!別嬪さんが横にいるなら花火も格別だろうなぁ!」
土方「ったく、浴衣だろうが何だろうが名前な事に変わりねえだろ」
騒ぎ立てる藤堂達を、土方は呆れたような様子で見ている。
そんな中、沖田はこっそりと斎藤に耳打ちをした。
沖田「…ちょっと楽しみでしょ?一君」
その言葉に、一瞬驚いたように目を見開いた斎藤。
しかし彼はそれ以上の反応は見せず、黙って沖田から視線を逸らした。
沖田「(…ふうん。一君も、ちょっと意識し始めてるじゃん)」
そんな事を思っていた沖田だが、これを口に出すことは無かった……。
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