銀桜録 試衛館篇 | ナノ


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藤堂「 ──── うおーっ、すげえ人出だな!!」

原田「まっ、年に一度の祭りだからな」

永倉「やっぱり祭りはこうでねえとな!」


大勢の行き交う人と立ち並ぶ屋台を見て、藤堂は目を輝かせていた。
祭り好きの血が騒いでいるらしく、そんな藤堂を見て原田と永倉も笑っている。
その後ろには、名前と沖田、そして斎藤と土方がついて来ていた。


沖田「珍しいですね、土方さんも来るなんて」

土方「ん?ああ、たまには商売から離れて羽根伸ばしてこいって近藤さんに言われちまってな」

沖田「ふうん。だったら近藤さんも来れば良かったのになぁ」

名前「きっとお義姉様と花火を見るんじゃない?」

沖田「あっ、そうか」


近藤は昨年、おつねという女性と結婚している。
おそらく道場から二人で花火を見るのだろう。


沖田「久しぶりの花火だからって子供みたいにはしゃがないでくださいね、土方さん」

土方「あぁ?そりゃ、てめぇの方だろうが」

沖田「どうだか」


祭りだというのに、こんな時でも二人は嫌味を言い合っている。
そんな中名前は、土方の後ろを静かに歩いていた斎藤に声をかけた。


名前「一君!一君は、お祭りは好き?」

斎藤「…滅多に行かぬが…嫌いではない」

名前「そうなんだ、よかったぁ!一君、本当は人が集まる場所は嫌いなんじゃないかって、ちょっと不安だったの」

斎藤「いや、そんな事は…」

名前「そっか!じゃあ今年は皆で屋台を見て、最後は花火を見ようね!」

斎藤「…ああ」


口元に微かに笑みを浮かべる斎藤。
それを見て名前も顔を綻ばせるのであった。
すると、二人の前を歩いていた沖田が「名前」と声を掛けてくる。


沖田「近藤さんからお金貰ったんでしょ?何か買ってきたら?」

名前「えっ?皆で使わないの?」

土方「お前が貰ったんだからお前の金だろうが。近藤さん、お前の為に毎日少しずつ貯金してんだよ」

名前「…ええええっ!?そうなんですか!?」

藤堂「確か近藤さんの部屋に貯金箱あったよな」

永倉「ああ」

名前「嘘っ…!!」


衝撃の事実を明かされ、名前は大きく目を見開いた。
しかも、名前以外には周知の事実であったようである。
驚きのあまり口をぱくぱくさせている名前に、土方は珍しく柔らかな眼差しを向けた。


土方「お前に綺麗な着物着せて、良い所に嫁がせてやるのが夢なんだとよ」

名前「…兄様…」

原田「良かったじゃねえか、名前」

名前「うん…!」


尊敬する兄から注がれる大きな愛情を感じ、名前は笑みを浮かべる。
無邪気さがふわりと散る、屈託のない笑みであった。


土方「…っつーわけだ、好きなもん買ってこい」

名前「はいっ、わかりました!それじゃあ…」


何を買おうか、と名前が辺りに目を向けた時であった。


松「名前ちゃん!」

名前「あっ、お松さん!こんにちは!」


呼び止められて振り返れば、団子屋の女将のお松が駆け寄って来るところであった。


土方「これはどうも。うちの名前がいつもお世話になっております」

松「いえいえこちらこそ!いつもご贔屓にどうも。今日は試衛館の皆さんも一緒なのね」

名前「はい!皆で花火を見ようと思って」

松「あらあら、いいわね」

名前「お松さんは今日もお店ですか?」

松「ええ、勿論よ。今日は稼ぎ時だもの」


お松の団子屋は評判が良いため、毎日繁盛している。
祭りの日となるとなかなか忙しいだろう。
今は夕方なためか、少しは客足が落ち着いているようだ。

すると、名前の頭の中には一つの案が浮かんだ。


名前「そうだお松さん!丁度良かった、今いいですか?」

松「ええ、大丈夫よ」

名前「みんなちょっと待ってて!お松さん、お団子が食べたいんですけど ───」


そう言って名前はお松の背中を軽く押しながら、お松の団子屋へと入って行った。
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