1
──── 文久元年 八月。
暑さが続く中、名前は藤堂と打ち合いをしていた。
他方では斎藤と永倉、原田と沖田という組み合わせで手合わせしている。
するとそこへ、土方がやって来た。
土方「名前」
名前「はーい!なんですか?」
土方「近藤さんが呼んでるぞ」
名前「兄様が?なんだろう…」
土方「早く行ってこい」
名前「はーい!ごめん平助、また後でね」
藤堂「おう」
土方からの言伝を受けて、名前は打ち合いを中断して近藤のいる部屋へと向かった。
障子戸の前で声をかけ、「失礼します」と挨拶をして部屋へ入る。
近藤「悪いな、名前。稽古中だったろう」
名前「いいえ!どうなさいました?」
近藤「手を出してくれ」
近藤はニコリと笑みを浮かべると、袂から巾着を取り出した。
近藤はその巾着を、名前の手の上に置く。
チャリンと響く音は、小銭特有の音である。
名前「兄様!?このお金は…」
近藤「今日は祭りの日だろう?少しだが、試衛館の為に日頃頑張ってくれている礼だ。それで好きな物を買ってきなさい」
近藤の言葉に、名前は目を見開いた。
今日は年に一度の祭りの日であり、外では朝からお囃子の音が鳴り響いていた。
この祭りでは花火も打ち上げられるため、名前はいつも沖田と花火を見に行っていた。
祭りなだけあり屋台が立ち並ぶが、物を買う金は無かったため、毎年花火だけを楽しんでいたのである。
名前「で、でもっ、こんなに沢山…これは道場に回した方が ─── 」
近藤「名前。たまには試衛館の事は気にせず、自分の為にお金を使いなさい。お前は昔から我儘を言わず、俺達に尽くして働いてくれていたからな。欲しい物があっても我慢していた事だろう。今日くらいは自分の為に使いなさい」
名前「兄様…」
名前が感激したように目を輝かせると、近藤は少々照れたように含羞んだ。
近藤「…いや、すまんなぁ。お前に新しい着物どころか、浴衣すら買ってやれぬ情けない兄で…」
名前「何を仰いますか!兄様は、私の自慢の兄上です!名前は、父様と兄様を誰よりも尊敬しております!」
近藤「名前…お前は本当に、俺の自慢の妹だ」
そう言って近藤は、大きな力強い手を名前の肩に置く。
名前「はいっ!」
名前は、花が咲いたような笑みを溢れさせたのであった。
……そんなわけで。
名前「 ─── みんなっ!!お祭りに行こうっ!!」
今日は皆で、夏祭りに行くことになったのである。
<< >>
目次