銀桜録 試衛館篇 | ナノ


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酔いが回ってきた永倉達がどんちゃん騒ぎを始める中、名前は一人、料理に手を付けることなく桜を見上げていた。

桜を映すその瞳は、やはり輝いている。
……が、その輝きには僅かに影が差していた。
美しく花弁を降らす桜への愛と、哀感。
一人、桜を見上げるその少女は、どこか物悲しげで儚いのだ。

そんな名前の様子に気付いたのは、斎藤であった。


斎藤「…名前」


斎藤がその名を呼べば、彼女はぴくりと肩を跳ねさせる。
しかし、くるりと斎藤の方を向いた名前からは先程の儚さは消えており、いつもの無邪気な少女の表情に戻っていた。


名前「あっ、一君!食べてる?ご飯美味しい?」

斎藤「…ああ。絶品ばかりだ」

名前「そっか、よかったぁ!お料理ね、源さんと一緒に作ったんだよ!こんな御馳走作るの久しぶりでさ、作りながらわくわくしちゃった!」


先程の、彼女が見せたあの儚さは何だったのだろう。
彼女は桜を見て、何を思っていたのだろう。
そんな疑問が斎藤の頭を過ぎるが、目の前ではしゃぐ名前を見ていると、先程の儚げな彼女は気の所為だったのではないかと思ってしまう。

しかし桜の下で花のような笑みを浮かべる名前を見ていると、自然と斎藤の口元にも小さな微笑みが浮かんでいた。


斎藤「…あんたは、食わぬのか。新八達に全て食われるぞ」

名前「あっ、大丈夫だよ!総ちゃんに頼んでおいたから」


頼んでおいた、とは。
不思議に思って斎藤が沖田の方を見れば…。

成程、沖田のすぐ隣には鴨肉やらつまみやらが乗っている皿が置かれていた。
沖田がその皿に手を付ける素振りは見せていないため、あれが名前の分なのだろう。


名前「…だから、もう少しだけ。桜を見ていたくて」

斎藤「…そうか」


そう言って、再び桜を見上げる名前。
今度は先程のような儚さはなく、陽の光と共に降ってくる花弁を浴びて気持ち良さげであった。

そんな彼女の隣で、斎藤も静かに桜を見上げる。
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