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永倉「おい、もしかしてそれ酒か!?」
斎藤「ああ」
永倉「よっしゃあ!酒がこんだけありゃ十分だな!」
永倉の言葉に名前が首を傾げて玄関を覗き込むと、そこには既に二つの酒壺が置かれていた。
名前達の他に酒を貰ってきた人がいたようだ。
そしてその隣に並んでいるのは、鮎と死んだ鴨…。
名前「って、その魚と鴨はどうしたの!?」
原田「魚は源さんと山南さんだぜ」
井上「魚売りを襲う猫が最近出ていたようでね。その猫を山南さんと捕まえたら、お礼にと貰ったんだよ」
名前「えっ、凄い!…でも、源さんと山南さんが猫を…?」
井上と山南が猫を追いかけ回す姿が想像できず、名前は首を傾げた。
まあ、何はともあれ魚をこんなに沢山貰えたのは有難い。
藤堂「鴨はオレと新八っつぁんだよ」
永倉「そうそう!久々に鴨が食いたくてよ。鴨を貰うってのはなかなか出来ねえからな、手っ取り早く川で獲ってきたぜ!」
名前「この量を!?凄いね…」
並べられた5羽の鴨。
永倉と藤堂が、川で暴れる鴨を取り押さえているのは難なく想像ができた。
こんなに食べ切れるだろうかと一瞬悩むが、皆食欲旺盛の大人の男達だからその点は心配無いだろう。
永倉「で、酒は左之だったよな?」
原田「ああ。俺は店前の乱闘を止めただけだが」
名前「ああ、やっぱり!」
やはり名前達の予想通り、原田は喧嘩の仲裁を行っていたようだ。
しかしそれでも一人で酒壺を二つも貰ってくるとは。
それに、皆が貰ってきた品が綺麗に分かれているのは幸運だ。
するとそこへ、何処かへ出かけていたらしい土方が帰って来た。
名前「あっ、土方さん!お帰りなさい!」
土方「おう。…って、こりゃまた随分と大量だな…」
沖田「あれ、土方さんは何もしてないんですか?」
土方「そんなわけねえだろうが。俺は今日一日商売してたんだよ」
そう言って土方は袂から封を取り出す。
恐らく中には金が入っているのだろう。
この金は明日の花見ではなく、明後日からの生活費になりそうだ。
するとそこへ、聞き慣れた足音が中から聞こえてくる。
近藤「皆戻ったか?」
沖田「近藤さん!」
名前「兄様、兄様!見てくださいこれ!」
近藤「おお、これは凄いな!皆のお陰で明日の花見は素晴らしいものになりそうだ!皆、本当にありがとう」
近藤の嬉しそうな声に、沖田と名前は顔を見合わせて笑う。
藤堂と永倉も得意気な顔をしていた。
近藤「そういえば、先程来客があってな。皆で食べてほしいと『とらや』の羊羹を頂いたんだが、明日にどうだろう?」
名前「えっ、『とらや』の羊羹!?」
井上「それはまた凄い物を頂いたねえ」
沖田「さすが近藤さんですね」
『とらや』の羊羹は、知らぬ人は居ないほど有名な菓子だ。
ただの菓子ではなく、公家や御所の御用達の店であり、江戸幕府五代将軍綱吉公や、八代将軍吉宗公に菓子を贈ったという記録も残されている。
庶民ではなかなか手に入らぬ代物だ。
どんな伝手かは疑問だが、沖田の言う通り流石は近藤である。
近藤「よし!では明日は昼から花見をしよう」
永倉・藤堂「「よっしゃー!!酒が飲める!!」」
恐らく永倉と藤堂は酒が飲みたいだけだろうが、近藤の言葉に皆は賑わい始めた。
土方も珍しく表情を和らげて、山南や井上と話し込んでいる。
皆が浮き足立っているのを見ると、自然と名前も嬉しくなっていた。
名前「一君、一君!楽しみだね、お花見!」
斎藤「…ああ、そうだな」
斎藤の顔を覗き込んで、花が咲いたような笑顔を浮かべる名前。
それを映す斎藤の蒼い瞳は、柔らかな色をしていた……。
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