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──── 空が茜色に染まる頃。
道端には、両手いっぱいに食料を抱えて歩く三人の姿があった。
沖田「いやー、それにしても最初の名前は傑作だったね」
あははは!と声を上げて笑うのは沖田である。
その隣では、「もうやめてよ…」と名前が膨れていた。
あれから名前達は何件か人助けを行った。
無銭飲食をした男を捕まえたり、大切な櫛を無くしたと嘆いていた女性の櫛を見つけたり、いなくなってしまった飼い猫を探したり。
すると、山南の予想は面白いほどに当たり、様々なお礼の品が貰えた。
貰ったのは主に野菜である。
また、助けた相手がたまたま酒屋の娘であったという偶然も重なって、永倉達が所望していた酒も手に入ったのである。
だが沖田が話しているのは、一番最初に名前が男を捕まえたことについてである。
あの男は八百屋で野菜を盗んだらしく、しかも常習犯だったようでその八百屋や近隣の店も手を焼いていたのだとか。
そのためお礼にと野菜を沢山貰ったのだが…。
あの時の名前の、男に馬乗りになったまま見せた清々しい笑顔が忘れられず、沖田はしょっちゅう思い出し笑いをしていた。
斎藤「…先程の柔術は、華麗な一本だったと思う…」
名前「…一君、笑ってるよね?肩震えてるよ?」
沖田「笑わずにはいられないよ。急に走り出したかと思えばあっという間に男の人を追い越して立ち塞がるなんて、何処の凶暴な猪かと思ったもん」
名前「ちょっ、女の子に向かって凶暴な猪って、あんた!!」
沖田「あーあ、左之さん達にも見せたかったなぁ」
名前「やめて、末代まで語られる」
沖田「僕が見てた時点で後世に語り継ぐけど?」
名前「しまった、それは不覚…!!」
そんな他愛もない会話をしているうちに、いつの間にか試衛館へ着いていた。
門をくぐれば、玄関には先に帰っていたらしい原田達が集まっており、何やら話し込んでいる。
名前「ただいまー!」
沖田「ああ、重かった…」
永倉「おっ、来た来た」
藤堂「おかえり、一君も一緒だったんだな…って、何だその大量の野菜!?」
原田「こりゃすげえ。名前、重いだろ」
名前「あっ、ありがとう」
名前達の姿を見るなり、原田と藤堂と永倉が驚いたように目を見開いて駆け寄ってきた。
名前に至っては小さな体が野菜で埋もれそうになっており、慌てたように原田が受け取り、代わりに運んでくれる。
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