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──── 町に出て、四半刻(30分)程が経過した。
沖田「…こういうのってさ、探してる時に限って見つからないよね」
名前「同感…」
歩きながら、沖田と名前は溜息を吐いた。
普段ならあちこちで口論や乱闘が起こっているのだが、何故か今日に限って全く見当たらないのである。
斎藤「…左之達が先に解決しているのかもしれぬ」
沖田「あー、有り得るね。特に乱闘止めるのは左之さんの得意分野だろうし」
名前「んー、それなら他に困ってる人いたりしないかな。落し物をしたとか、迷子になったとか…とにかく、片っ端から当たってみようよ」
沖田「そうだね」
そう言って、三人で頷き合った時である。
「金払え、泥棒ーーーっ!!」
後ろからそんな叫び声が聞こえたかと思うと、一人の男が物凄い勢いで走りながら名前達を追い抜いていった。
恐らく無銭飲食か、窃盗の類だろう。
沖田「っ!名前 ──── 」
と、沖田が名前の方を見た時。
沖田と斎藤の間に居たはずの彼女は、既にそこには居なかった。
同時に、二人の間を吹き抜ける風。
名前「待ちなさい、そこのあんたーーーっ!!」
沖田と斎藤が反応するよりも速く、名前は駆け出していたのである。
こんなこともあろうかと、動きやすい道着袴を着ていた名前。
加えて名前は、試衛館に通う者の中でも群を抜いて足が速い。
日々試衛館で鍛えている男達よりも足が速いのだから、名前がその男に追い着くのは容易であった。
あっという間に距離を縮めたかと思えば、男の前方に回り込んで立ち塞がった名前。
突如目の前に名前が現れたことに気付いた男が「あっ」と声を上げた時には、もう勝負は決まっていた。
名前は瞬時に男の腕を掴んで捻り上げ、いとも簡単になぎ倒してしまったのである。
男をうつ伏せにして背中に乗り、体を押さえつければ、「ぐえっ」と呻き声が上がった。
沖田「名前!大丈夫!?」
慌てたように駆け付ける沖田と斎藤。
自分らよりも小さな彼女に怪我が無いかと心配する二人であったが……。
名前「うん、大丈夫!捕まえたよっ!!」
男に馬乗りになったまま振り返った名前は、笑顔であった。
それはあまりにも清々しい笑顔であり、沖田と斎藤は唖然としてその光景を見ていたのであった……。
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