銀桜録 試衛館篇 | ナノ


1

──── 文久元年 四月。

いつものように、近藤の「いただきます」という挨拶で朝餉が始まる。
すると、名前が何やらわくわくしている様子で声を上げた。


名前「兄様、兄様!四月になりましたよ!今年もお花見しますよね!?」

近藤「む?ああ、もうそんな時期か!早いなぁ」

名前「お花見!しますよねっ!?」

土方「ったく、朝から元気だなお前は…」

近藤「ははは、元気なのは良いことじゃないかトシ。そうだな、明日にでも花見をしようか」

名前「やったぁ!!」

沖田「良かったね、名前」

土方「おい、飛び回るな!食事中だろうが」

名前「ぎゃっ、すみません…」


土方に怒られ、慌てて席につく名前。
だがその瞳はキラキラと嬉しそうに輝いている。

一方で首を傾げているのは藤堂と原田、永倉だ。


原田「おっ、花見するのか?いいじゃねえか」

名前「うん、そうだよー!」

沖田「左之さん達は初めてだよね。お花見は毎年やってるんだ、名前が凄く楽しみにしてるから」

藤堂「へぇー!楽しそうだな!」

永倉「だな!」

沖田「って言ってもお酒は無いよ、新八さん」

永倉「なんだ、飲めねえのか…」

土方「うちにはそんな金はねえんだ、我慢しろ」


酒が無いと知り、がっくりと肩を落とした永倉。

確かに一般的には、花見といえば酒である。
しかし試衛館は貧乏道場なうえ、近藤や名前は下戸、土方も酒に弱い。
普段から酒を飲む人があまり居ないので、例年の花見では酒は出なかった。

だが今年からは大酒飲みの永倉や酒好きな原田と藤堂がいる。
彼らも金を持っていないのは同じであるから、普段から酒を我慢しているのだ。
そんな永倉達に対して機転を利かせたのは、山南であった。


山南「確かに酒や豪華な料理を買うお金はありませんが、折角人も増えてきたというのにそれでは少し寂しいですね…。では、困っている町の人達を手助けし、お礼として何かを貰うというのは如何でしょう?」

原田「礼として貰う…か。しかし、助けるから何かくれってのは現金すぎやしねえか?」

山南「勿論此方の狙いは伝えませんよ。しかし、助けてもらったら何かお礼をする…日ノ本の人間とはそういうものですよ」

永倉「成程な…。明日までに大金稼ぐよりか、よっぽど現実的かもしれねえな」

藤堂「ようし!!そうと決まったら人助けだな!!」

名前「私もやる!!」


山南の提案を受け、今日は皆町に出ることになりそうだ。


*****


沖田「 ─── 名前はどうするの?」

名前「え?」


草履を履いていると、差した影と降ってきた声。
顔を上げれば、いつの間にか沖田がそこにいた。
"どうする" とは、恐らく人助けのことだろう。


名前「うーん、どうしようかなぁ。他のみんなは?」

沖田「左之さんと源さんと山南さんはさっき町に行ったよ。新八さんと平助は、"どうせなら俺らにしか出来ねえ事をやろうぜ!" って騒ぎながら何処かに行っちゃった」

名前「そっか。…それじゃ、私も町に出るかなぁ」


今日は商売の予定は無かったため、特に売る物はない。
そうなると、名前も皆と同じように人助けをしなければならない。


名前「商売してるとさ、たまに見かけるんだよね、喧嘩とか」

沖田「そうなの?」

名前「うん。店の前で乱闘騒ぎとかもよくあるみたいだし…そういうのを止めたりすればいいかも」

沖田「そっか。僕も行っていい?」

名前「うん、勿論!一緒に行こ!」


名前はぴょんっと立ち上がり、沖田の横に並ぶ。
そして、さあ行こうかと張り切って外に出た時である。


斎藤「…総司、名前」

沖田「あ、一君だ」

名前「一君!おはよう!」


試衛館の門をちょうど潜っていた斎藤と遭遇した名前達。

ちなみにだが、名前は斎藤を名前で呼ぶようになっただけではなく、敬語も外した。
「歳も近いようだから俺には畏まることはない」と斎藤に言われたのだ。

斎藤は少し辺りを見渡しながら二人へと近付いてくる。


斎藤「…今日は人気が少ないような気がするが…あんたらも何処かへ行くのか?」

沖田「あ、そうそう。実は赫々然々で…」


そう言って、沖田は事の経緯を斎藤に説明し始めた。
話を聞いた斎藤は、納得したように頷く。


斎藤「…成程」

名前「ね、一君も来るよね!明日のお花見!」

斎藤「…しかし…俺などが参加して良いものか…」

名前「いいに決まってるじゃん!っていうか、一君も参加するもんだと思ってたし!」

斎藤「…そうか。ならば参加させてもらおう」

名前「本当!?やったぁ!」


名前は嬉しさのあまり、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
今年の花見は昨年よりも数段賑やかになりそうだ。


沖田「僕達もこれから人助けしに行くんだけど、一君もどう?今日は皆出払ってるし」

斎藤「…そうか、わかった。では俺も行こう」

名前「よし!三人寄れば文殊の知恵って言うし、とりあえず町に行こう!」

沖田「そうだね」


斯くして名前は、沖田と斎藤と共に町へと繰り出したのであった…。
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