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名前「凄い…まだ手が痺れてる…震えてる…」
沖田「あはは、そうだよね。だけど名前も良かったと思うけど。ね、斎藤君?」
沖田が斎藤に向けて問いかける。
名前も斎藤に視線を向ければ、彼はしっかりと頷いた。
斎藤「…先程の一撃…迷いの無い、真っ直ぐな剣だった。…あんたは目が良い。自分の体を操る能力も高く、隙を突くのが上手い。沖田が、あんたとは戦いにくいと言った理由がわかった」
名前「あ…ありがとう、ございます…」
斎藤「…できれば、これからも手合わせ願いたいのだが」
名前「…えっ!?」
それは、名前にとって予想外の言葉であった。
斎藤の腕前と自分の腕前では天と地の差。
加えて女である自分など、彼の眼中には無いだろうと思ってしまっていたのだ。
沖田「へえ、凄いじゃん。結構最大級の褒め言葉じゃない?」
斎藤の言葉に驚きで固まっていた名前。
名前が沖田の方を見れば、沖田は翡翠色の目を細めて優しく笑っていた。
斎藤も、穏やかな瞳で名前を見つめている。
徐々に、嬉しさが込み上げてきた。
今までやってきた事が報われた気分だった。
名前「っ、ありがとうございます!こちらこそ、またよろしくお願いします!」
いつの間にか、手の震えは止まっていた。
名前が無意識に感じ取っていた周りとの力の差を、斎藤は彼女の強みを教える事で埋めてくれたのである。
強さとは、力技だけではないのだと。
名前が笑ってお礼を言うと、斎藤も小さく口元に笑みを浮かべてくれる。
すると、沖田が思い出したように口を開いた。
沖田「…そうだ。斎藤君だとなんだか堅苦しいからさ、一君って呼んでもいい?僕のことも名前でいいからさ」
斎藤「…ああ、それは構わぬ」
沖田「良かった。名前もそうしたら?」
名前「…え!?」
突然名前に飛び火がきた。
ぎょっとして沖田を見れば、彼はニヤニヤと笑みを浮かべている。
これは確実に確信犯の顔だ。
名前「い、いや、それはさすがにっ…!」
沖田「一君、平助と同い年なんだって」
名前「えっ、そうなの!?」
藤堂と斎藤が同い年…全く見えない。
藤堂の方が年相応といった感じがするが。
沖田「ね、いいよね?一君」
斎藤「…ああ。好きに呼んでくれて構わない」
沖田「だってさ。ほら、呼んであげなよ」
名前「えええっ!?」
グッと無理やり沖田に背中を押され、名前は斎藤と向き合う形になった。
カァッと顔に熱が篭っていくのを感じる。
しかし、逃げ出そうにもガッシリと沖田に肩を掴まれており、逃げられない状況だ。
諦めた名前は、意を決して口を開く。
名前「あ、えっと…はじめ、くん…?」
斎藤「…ああ。それで構わぬ」
名前「っ!う、うん!」
" はじめくん "。
たった五文字のその音が、名前にとってはなんだかとても素敵な響きに思えた。
それと同時に、少しだけ心の距離が縮まったようにも思える。
沖田「…ニヤけてるよ、名前」
名前「は、はぁっ!?ニヤけてなんかないし!!笑顔だよ、笑顔!!」
沖田「そうだとしたら随分と気味の悪い笑顔だったけど」
名前「総ちゃん酷い!!」
藤堂「なあなあ、オレも一君って呼んでいい!?」
斎藤「…ああ、構わぬ」
藤堂「よっしゃ!」
何やら賑やかになってきた道場。
楽しそうに騒ぐ名前達に囲まれた斎藤が小さな微笑みを浮かべていたことに気付いた者は、誰もいなかった。
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