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すると、「名前」と審判をしていたはずの沖田の声が聞こえてきた。
其方に視線を向ければ漸く斎藤と永倉の試合が終わったようで、沖田が此方に手招きをしている。
名前「はーい、なあに?」
沖田「名前さ、斎藤君と手合わせしてみない?」
名前「…え!?」
沖田の言葉に、名前はぎょっとして目を見開く。
それに、彼の言葉に驚いたのは名前だけではなかったらしい。
斎藤「…沖田、本気で言っているのか?」
沖田「本気だよ?斎藤君が言ったんじゃない、他の人とも戦ってみたいって」
斎藤「それは…そうだが」
沖田「平助とも新八さんとも左之さんとも戦ったんだし、そうなるともう名前しかいないよ」
斎藤「……」
蒼色の瞳が此方に向き、ドキッと名前の心臓が跳ねる。
沖田「大丈夫、こう見えてこの子結構強いから。速さならこの中で一番なんじゃない?意外と戦いにくいし、いい練習になると思うよ」
名前「えっ…」
斎藤「…成程」
まさか、沖田から褒められるとは。
名前は、自分には沖田のような突出した才能があるとは思っていない。
藤堂のように体力が自慢なわけでもなければ、永倉のように力自慢なわけでもなく、かといって原田のように剣術の他に槍術に長けているわけでもない。
明確な劣等感を抱いているわけではないが、心のどこかで沖田達には追い付けないと名前は思い込んでいた。
そんな名前を、沖田が褒めた。
さらりと、彼女を認める発言をしたのである。
名前が驚いて目を瞬かせている間にも話は進んでいく。
斎藤「…それならば、一度手合わせ願いたい」
沖田「だってさ、名前。いいよね?ね?」
名前「は、はい…」
沖田「うん、そうこなくっちゃね」
身を乗り出してきた沖田に慌てて名前は頷いた。
……何やら圧力のようなものを感じたが、多分気の所為だろう。
沖田「あ、斎藤君。手加減はしなくていいからね、名前はその辺にいる普通の女の子じゃないんだ。この子、木刀持ったら猪みたいに突っ込んでくるから」
名前「いのっ…!?ちょっと総ちゃん!?何それ酷くない!?」
藤堂「ぶはっ、猪っ…」
名前「こら平助笑うな!!」
沖田の発言が聞こえていたらしく、井上と一緒に稽古をしていた藤堂が思い切り吹き出した。
ムッとしていると、沖田から木刀を差し出される。
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