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斎藤「…一ついいだろうか」
名前「はい、何でしょう?」
斎藤「俺は…あんたを、何と呼べばいいのだろうか」
名前「え…?」
斎藤「…近藤…では、あんたの兄上の近藤さんと紛らわしいような気もするのだが」
そう言われればそうかもしれない、と名前は考え込んだ。
今まで自然と自分は名前で呼ばれており、苗字で呼ばれることなど無かったため、考えたこともなかったのだ。
だが、それならば悩む必要などないだろう。
名前「でしたら、私のことは気軽に名前とお呼びください。皆もそう呼んでくれていますから」
斎藤「…名前…」
名前「はい!」
斎藤に名前を呼ばれたことが嬉しくて大きく頷けば、斎藤もそれに呼応するように小さく頷いた。
斎藤「…承知した」
名前「…あ…」
再び、小さな微笑みを見せてくれた斎藤。
その時の瞳が酷く優しくて、此方に向けられた蒼色が美しくて、彼に助けてもらったあの日を名前に思い出させた。
──── ああ、やっぱり私はこの人が好きなんだ。
とくん、と心臓が高鳴るのがわかった。
ポーッとなって斎藤に見とれていた名前だが、幸いにも彼はその事に気づいていないようだった。
すると、ドタドタと此方に向かってくる騒がしい足音。
藤堂「あ、いたいた!一君、今日はオレと手合わせしてくれよ!昨日からずっと一君と戦ってみたくてさ!」
斎藤「…承知した」
やって来たのは藤堂であった。
斎藤と手合わせをしたくて彼を探していたらしい。
藤堂「……あれ?名前じゃん。もしかしてお取り込み中?」
名前「あ、ううん!もう終わったから大丈夫!」
藤堂「そっか。よし!行こうぜ、一君!」
斎藤「ああ」
名前「頑張ってね」
藤堂「おう!」
バタバタと忙しなく走っていく藤堂と、それとは対照的に静かにその場を去っていく斎藤。
そんな二人の背中を、名前は手を振りながら見送っていた。
……そして、彼等の背中が見えなくなると。
名前「 ─── はぁぁぁっ……」
大きく息を吐き、へなへなとその場に座り込んだ。
名前「…名前…呼んでくれた…」
" 斎藤「…名前…」 "
落ち着いた声色で、名前の名前を呼んでくれた斎藤。
誰かに名前を呼ばれるなんて、日常茶飯事のことだったのに。
恋い慕う相手に名前を呼んでもらえるのが、これ程までに嬉しいことだったなんて。
あの声を思い出すだけでバクバクと心臓が暴れ出す。
よく平然と会話できていたものだ。
名前「…よし、まずは第一歩だ。もっと頑張って話しかけて、仲良くなろう…!」
もう一度大きく息を吐き、名前は気合いを入れ直すのであった。
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