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斎藤が連れて来られたのは名前の部屋だった (名前は入ってもいいと言ったのだが、斎藤は「女子の部屋に入るなど……」と断り、部屋の外で待っていた)。
名前は箪笥から例の羽織を取り出してきて、ズイッと斎藤に手渡す。
斎藤「……?これは……」
どうやら、斎藤は名前に羽織を貸したことを忘れてしまっているようだ。
此方は斎藤に恋焦がれていたというのに(と言っても羽織の手入れをする時に思い出していた程度だが)、忘れられているというのは少し残念だ。
しかし、その程度で傷付くほど名前は弱くない。
名前「あの…実は私、二年前に斎藤さんに助けてもらったことがあるんです」
斎藤「二年前…?」
名前「はい。その時に、体を冷やしてはいけないと斎藤さんが貸してくれたんです。ずっと、これをお返ししてお礼を言いたくて」
羽織を差し出しながら名前が微笑むと、斎藤の目が何かに気づいたように少しだけ見開かれた。
斎藤「…!もしや、あんたはあの時の…」
名前「は、はい!そうです!」
どうやら斎藤は、名前のことを思い出してくれたようだ。
名前は嬉しくなって、ぶんぶんと縦に大きく首を振る。
名前「あの時は本当にありがとうございました」
斎藤「いや、礼には及ばぬ。…あの後、風邪等は引かなかったか」
名前「はい、お陰様で!本当に助かりました」
斎藤「そうか」
小さな笑みを口元に浮かべて、斎藤は少し安心したように頷いた。
名前の体を何よりも先に心配してくれる。
話し方は少々無愛想だが優しさが表れており、ぽっ、と名前の心には小さな灯が灯る。
斎藤「このような偶然があるものなのだな…」
名前「本当ですよね!私も凄くびっくりしちゃって」
斎藤「…改めて、これから宜しく頼む」
名前「はい!こちらこそよろしくお願いします」
名前がニコリと笑って挨拶をすれば、斎藤はふと何かに気づいたような顔になった。
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