銀桜録 試衛館篇 | ナノ


3

土方「…なに固まってやがんだ?お前も挨拶しろ」

名前「あっ、は、はい!…こんにちは、近藤名前です。えっと…よ、よろしく、お願いします…」


まさか…二度と会うことは無いと思っていた初恋相手に、二年越しに再会することになるとは。
驚きで口から心臓が出そうになりながらも名前は何とか自己紹介をし、頭を下げた。

しかし、そんな彼女を訝しげに見ているのは沖田と土方である。


沖田「…どうしたの、名前。なんでそんなに静かなの?」

名前「え」

土方「気分でも悪ぃのか?そこまで静かだと気味が悪ぃな」

名前「なっ、気味が悪いって何ですか!いつも通りですけど!?」


つい癖で食ってかかってしまうが、斎藤がいる手前、ハッとして名前は口を閉ざした。

確かに名前は、藤堂や原田、永倉がこの道場へやって来た時、彼らを質問攻めにしている。
そして誰よりも早く打ち解け、仲良くなるのだ。

そんな名前が、斎藤を前にして完全に固まってしまっている。
沖田と土方が不思議に思うのも当然なのである。


土方「そうか?…まあいい。斎藤、名前は近藤さんの妹でな」

近藤「ああ、皆と共に剣術を学びながら此処の家事をやってくれているんだ。斎藤君とは歳も近いだろうし、仲良くしてやってくれ」

斎藤「…承知致しました」


名前が剣術を学んでいる、という言葉に斎藤が少しだけ反応を見せた。
蒼い瞳が、じっと名前を見つめている。


近藤「…ああ、そうだトシ!明後日の出稽古の件なんだが…」

土方「ん?なんだ?」


どうやら近藤は土方に話があるらしく、二人で話しながらその場を去っていった。

残されたのは名前と沖田、そして斎藤である。
バチリ、と綺麗な蒼と目が合った名前。
心臓が高鳴り、上げそうになった悲鳴を何とか飲み込んだ。


名前「…あ、あのっ…私、ちょっとやることがあるので…!!」


斎藤に再会できたことはとても嬉しい。
しかし今、名前の頭の中は混乱状態にあり、冷静になりたかった。
あまりにも心臓が高鳴るので、このままでは身が持たないと感じたのである。

名前はガバッと勢いよく頭を下げると、バタバタと走ってその場から逃げ出したのだった。
慌てて走っていく小さな背中を、沖田は不思議そうな面持ちで眺める。


沖田「…何だか変だなぁ。ごめんね斎藤君、僕もちょっと行ってくるから」

斎藤「…ああ」


そう言って、沖田は名前を追いかけて行った。
結局斎藤は、早々に一人ぽつんとその場に残されてしまったのである……。
<< >>

目次
戻る
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -