銀桜録 試衛館篇 | ナノ


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──── 試衛館に戻ってきたのは昼八ツ(15時)頃であった。

朝早くに掃除と畑仕事は終わらせているし、洗濯は沖田がやってくれているので、あとは今日の売り上げを計算して近藤に渡せば仕事はおしまいだ。

早く剣術の稽古がしたい。
休む時間が勿体ないと感じるほど、名前は剣術が好きだった。

部屋に戻りせっせと算盤を弾いていると、「名前」と名前を呼ばれる。
振り返れば、沖田がいつの間にかやって来ていた。


沖田「おかえり」

名前「あ、総ちゃん!ただいま!そうだ、団子屋のお松さんからお団子貰ったんだよ!一緒に食べない?」

沖田「本当?ありがとう。それよりもさ、ちょっと来てよ。さっき新しい人が来たんだ。凄く強い人なんだよ」

名前「えっ、そうなの!?」


どうやら新しく試衛館に入った人がいるらしい。

沖田の口調からして、もう手合わせはしたのだろう。
試衛館の看板である沖田が「強い」というのだから、中々の腕前の者がやって来たようだ。

挨拶をしなければならないため、名前は慌てて沖田の後をついて行く。


*****


道場に入れば、近藤と土方と話をしている昨日までは無かった背中があった。

すらりとした身の丈、黒い着物、白い襟巻き。

─── ドクンッ……。

心臓が、飛び跳ねた。


土方「……名前、帰ってたのか」

近藤「おお、名前!ちょうど良かった、此方に来なさい」

名前「……は、はい」


右差しの刀、切れ長の青い瞳。

─── 私は、この人を知っている。


近藤「紹介しよう、今日から我々の仲間となった斎藤一君だ」

斎藤「斎藤一だ。これからよろしく頼む」

名前「…あ…」


"「……少し濡れてはいるが、無いよりは良いだろう。着ていくといい」"

"「遠慮はいらぬ。女子は体を冷やしてはならぬだろう」"



彼の容姿が、声が、あの時の少年の姿と重なる。

間違いない、彼はあの時の。
名前の直感は、確信へと変わっていた。

─── 彼は、私を助けてくれた人。
そして、私の初恋の人だ。

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