銀桜録 試衛館篇 | ナノ


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──── 文久元年(1861年) 三月。

それは、昼九ツ頃のことであった。


沖田「ぷっ、あはははは!!」

永倉「ぶわーっはっはっは!!こりゃまた見事なたんこぶ作ってきたもんだな!」


道場に、沖田総司と永倉新八の豪快な笑い声が響き渡った。
二人は腹を抱えてゲラゲラと笑っている。


藤堂「うわー、すっげえ痛そう……」

原田「おいおい、大丈夫か?」


その一方で同情したような声を出したのは藤堂平助、苦笑いを浮かべているのは原田左之助だ。

原田と藤堂は昨年、永倉は今年の一月から、試衛館で生活をしている食客である。
三人ともその腕前は他の門弟よりも突出したものであり、さらには波長が合うようで、よく一緒に稽古や酒盛りをしていることが多い。

そして、そんな彼らの目の前にいる少女は。


名前「………めちゃくちゃ痛かった」


額に大きなたんこぶが出来ている、近藤名前である。
何故こんなことになっているかというと、それは四半刻ほど前に遡る。

先程、とある部屋の掃除をしていた名前。
すると、押し入れから御器噛が出てきたのである。

畑仕事をしているからか虫にはそれなりに耐性のある名前だが、どうもこの御器噛だけは昔から苦手で。
飛び出てきた御器噛に驚いて悲鳴を上げて飛び退き、ドシンと畳に尻餅をついた。

……これだけなら、特に問題はなかったのである。
問題は、たまたま名前がいた部屋の隣の部屋に来客があったということだ。
しかもその客は、名前と同じく門弟である土方歳三に用があって来ていた客であった。

なんでも、土方の実家で作っている石田散薬を買いに来たのだとか。
彼はこの薬を売った収入で試衛館と実家の暮らしを支えているため、大事な商売をしている最中に邪魔が入っては堪らない。

そしてこの土方、この道場で唯一名前に対して暴力的な人物でもあり、名前は彼の拳骨を何度も食らっている (名前と沖田の方から土方に悪戯を仕掛けているので仕方の無いことなのだが)。

そんなわけで、道場には土方の罵声と鈍い拳骨音が響き渡ったのであった。
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