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沖田「名前って馬鹿だよね」
名前「唐突に酷い」
晴れて浪士組への参加を認められた名前。
近藤と土方、山南はこれから浪士取締役の山岡鉄太郎という男と面談を行うらしく、道場を後にした。
一方道場に残された名前達。
一息つくや否や沖田に辛辣な言葉を浴びせらた名前は、思わず眉を顰めた。
藤堂「本当だよ。お前って変」
名前「平助も酷い!」
藤堂も名前の短くなった髪をつんつんと触りながら、沖田に同調する。
沖田「褒めてるんだけど?」
名前「どこが!?」
藤堂「オレも。お前にとって "変" は褒め言葉だろ」
名前「なんでそうなるの」
いくら二人が褒めているつもりでも、馬鹿だとか変だとかそのような言葉で褒められるのは複雑である。
原田「しかし…驚いたな、まさか髪まで切っちまうとはなぁ」
こんなに短くなっちまって、と原田は困ったように眉を下げて名前の頭を撫でる。
彼の手が気持ち良いのか、ふにゃりとした笑顔を名前は浮かべた。
そんな彼女を見て、原田や永倉、藤堂も釣られたように笑顔を浮かべる。
永倉「悪かったな、名前。さっきは『なんでお前さんが』なんて言っちまってよ」
藤堂「オレもごめん。お前がそこまで腹括ってたなんて知らなかった」
名前「ううん!誰にも言ってなかった私が悪いよ。全然気にしてないし、だから新八さん達も気にしないで」
永倉「悪ぃなぁ。にしてもこれからもまたお前さんと一緒に居られるとはな!これも何かの縁だし、今後も宜しく頼むぜ」
名前「うん、こちらこそだよ!」
沖田「君が居れば退屈しないし、丁度良かったよ」
名前「そうだね!総ちゃんがいない生活なんて考えられないや」
原田「お前ら、十年近く一緒にいるんだろ?すげえな」
沖田「十二年だよ」
藤堂「長っ!」
これからも、皆と一緒に居られる。
それは名前が夢にまで見たことだった。
─── もうこれ以上、辛い別れを経験したくない。
近藤達に尽くしたいという思いの他にも、そんな思いが彼女の中を大きく占めているのは事実である。
藤堂「…っつうかお前、その格好で行くのか?」
名前「うん、そのつもり。袴の方が動きやすいし」
「「「「……」」」」
名前「…えっ、何?」
「「「「いや別に」」」」
名前「?」
藤堂達としては何だか複雑な気分であった。
今までは普通の町娘の姿であった可愛い妹が、いきなり男のような格好をし始めたのだから慣れないのである。
そして残念なことに、驚くほど男に見えない。
男物の袴を着て総髪になればどんな女性でも『中性的な男』くらいの見た目にはなれるはずだが、名前の場合はどこからどう見ても女である。
彼女があまりにも愛らしい顔をしており、おまけに童顔だからだろう。
沖田「…名前。浪士組に参加してからは絶対僕らから離れちゃ駄目だよ」
永倉「同感だな」
名前「えっ、どうして?」
藤堂「なんつーか…色々危ない気がする」
原田「恐らく大勢の男が集まるからな、あまりにも危険だ」
名前「?」
名前の格好を見ても、彼女が女であることは明白。
百歩譲って男だと思わせる事が出来たとしても、男が沢山集まれば中には男色を好む者もいるだろう。
つまり彼女は、どちらの趣向を持つ男からも好かれてしまう可能性があるのだ。
そして名前自身は、男として生きようなどとは思っていない。
動きやすいから男の格好をしているのであり、女という性別を捨てたつもりは無かった。
これから出会う者達には自ら進んで性別を公表することは無いだろうが、もし聞かれたら偽ろうなどとは思っていない。
名前の容姿がかなり整っていることもあり、危険倍増である。
しかし当の本人はよく分からないといった顔だ。
名前を除く四人は、何がなんでも彼女を他の男達から守らなければと誓うのであった…。
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