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道場に向かい、ひょいと中を覗けば、一人で素振りをしている斎藤の姿があった。
集中しているところに割って入るのは気が引けたため、彼が一息吐いたところを見計らって声をかける。
名前「一君!」
斎藤「…名前か。どうかしたのか」
名前「…あのね…え、えっと…その…」
…なぜだろう。
原田や藤堂を誘った時はすんなりと言葉が出てきたのに。
斎藤の蒼い瞳に見つめられて、言葉に詰まってしまった。
よく考えてみれば、一緒に何処かへ出かけないかと名前から斎藤を誘うのは初めてなのである。
斎藤とはよく話す仲になっているとはいっても、緊張するのは当然かもしれない。
珍しく口篭る名前であったが、斎藤は彼女を急かすでもなく、ただじっと彼女の言葉を待っていた。
恐らく、口下手な斎藤が言葉に詰まった時には名前も彼の言葉を気長に待っているからだろう。
しかし名前は、いつまでもうだうだと悩むのは好きではない。
名前「…お、お団子でも食べに行きませんか!!」
ええい、言ったれ!と半ば自棄になる名前。
予想外の言葉だったのか、斎藤は目を瞬かせていた。
しかし、
斎藤「…ああ、よかろう」
名前「……え、」
小さく笑みを浮かべながら、斎藤はゆっくりと頷いた。
まさかこれ程簡単に了承してもらえるとは思わず、今度は名前の方が目を瞬かせる番であった。
斎藤「…どうかしたのか?」
名前「…いや、てっきり断られるかと思ってて…」
斎藤「…断る理由など無いのだが…」
少し不思議そうな声色でそう言った斎藤。
彼からすれば特に深い意味などなく、何気なく放った言葉だったのかもしれない。
しかしその言葉を聞くや否や、名前は嬉しさのあまり飛び上がりそうになった。
名前「ほ、本当!?嬉しいっ!そうだ、実は土方さんからお使いも頼まれてるんだけど、それもいい?」
斎藤「ああ、構わん」
名前「よかった!じゃあ私、準備してくるから、ちょっとだけ待っててくれる?」
斎藤「ああ」
途端に目を輝かせて普段の饒舌さが復活した名前。
ころころと変わる名前の表情は見ていて飽きないらしく、斎藤は小さな笑みを浮かべながら彼女の言葉に頷いていた。
かくして、名前と斎藤は初めて二人きりで外出することになったのである。
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