銀桜録 試衛館篇 | ナノ


4

沖田「名前、恋しちゃったんでしょ。その人に」

名前「………はあぁっ!!?」


ボフンッと火が付きそうな勢いで、名前は顔が熱くなるのを感じた。

──── 恋!?私が!?


名前「……ま、まさかぁ!そんなんじゃないって」

沖田「だってその人のことが忘れられなくて、ドキドキするんでしょ?おまけに胸が苦しい、と」

名前「……うん」

沖田「恋以外の何があるのさ。今の君、完全に恋する乙女の顔になってたよ」

名前「えっ、……!」


言葉が出てこず、口をパクパクとさせる名前。

名前は、恋をしたことがなかった。
だからその感覚を知らない。
そのため沖田に言われれば言われるほど、これが恋なのかもしれないと思ってしまう自分がいた。


名前「…そう、なのかなぁ…」

沖田「絶対そうだよ」


頭に浮かぶ、あの少年の顔。
切れ長の蒼い瞳が、最後に見せてくれたあの小さな微笑みが、どうしても忘れられない。

そして、少年の黒髪にひらひらと舞っていた白い雪。
まるで桜に降られているようで、彼は本当に美しかった。

あの美しさを思い出す度に、胸が苦しくなる。
思わず、沖田が掛けてくれた羽織をぎゅっと握りしめた。


名前「……でも、どうしよう。私、あの人の名前も知らないのに……」

沖田「探し出して聞けばいいんじゃない?」

名前「そんな簡単に言わないでよ」

沖田「だって、羽織も貸してもらったままなんでしょう?」

名前「それはそうだけど……」

沖田「だったら都合がいいじゃない。探し出して羽織を返す、ついでに名前も聞く。それでお礼がしたいってことにしてお茶とかしてさ、そんで想いを告げる、と」

名前「そんなとんとん拍子で進む!?速すぎじゃない!?」

沖田「そんなもんでしょ」

名前「さすがに適当すぎるよ!」


初めて恋をした名前を面白がっているようにしか見えない。
ムッとして名前が眉を寄せれば、ごめんごめんと沖田は大して反省もしていない声色で謝った。


沖田「でも、この道が一番手っ取り早いと思うけど?」

名前「……ていうか、告白する前提なんだね……」

沖田「だって君の性格ならそうでしょ?こっそりひたすら思い続けるなんて、君にはできないでしょ」

名前「それは…確かにそうかも」


思い立ったらすぐ行動、というのが名前の性格だ。

嘘や隠し事は苦手で、すぐに感情が顔に出る。
そんな自分が名前も知らない相手にずっと片思いをし続けるなど、到底できる気がしない。

ずっと心の中に想いを秘めておくなど、想像するだけで気が狂いそうだ。


沖田「面白そうだから僕も暇を見て探すの手伝うよ」

名前「本音出てるよ、完全に面白がってるじゃん」

沖田「ごめんって。よし、そうと決まったら明日から探しに行こうか」

名前「本当にやるんだ……」


いつになくやる気に満ち溢れている沖田に、名前は小さくため息を吐いたのだった。


──── 次の日から、名前と沖田は暇な時間にあの羽織を持って町に行くようになった。

しかし、色々な店であの少年を見かけなかったか尋ねて回ったものの、手がかりらしき答えは1つも返ってこなかった。


そして二人は、ひと月もしないうちにその少年を探すのをいつの間にか止めてしまっていたのである。
名前の初恋は、雪と一緒に溶けてしまったのであった。

……しかし、その二年後。
再び歯車が動き出すことを、名前はまだ知らない ────。
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