銀桜録 試衛館篇 | ナノ


3

近藤「…そうか。やはり総司の言う通りだったのだな。お前の本心に気付いてやれないなど、俺は兄失格だな…」

名前「…えっ、総ちゃん…?」


突如出てきた沖田の名前に、名前は困惑した。
沖田は恐らく、名前の本心を見抜いていた。
だからこそ、何度も名前に「これでいいのか」と聞いてきたのだ。

自分が見合い話を止めてやるとまで言い出した沖田を、名前は何とか止めたはずだが…。
近藤の口調からして、やはり沖田は全てを近藤に告げてしまったのだろう。


近藤「…名前、お前の事だから総司に口止めをしたのだろうが…総司を責めてやるな。彼奴が居なければ俺は、大切な妹が苦しんでいることにすら気付けなかったんだ」

名前「……」

近藤「それに、総司はな…俺とトシに頭を下げに来たんだよ。名前の見合い話を断ってほしい、とな」

名前「…えっ!!?」


沖田が、近藤と土方に頭を下げた…?
衝撃的な一言に、名前は目を見開いた。


近藤「お前が意識を失って二日目の事だ。総司が、それはもう凄い形相で俺とトシの所へ来てなぁ。頼むから見合い話を断ってほしい、でなければ名前が壊れてしまうと頭を下げたんだ。…聞けば、お前が倒れたのは婚姻が嫌で、悩んで無理をしていたからだと言うじゃないか。俺は、女として裕福な家に嫁ぐ事がお前の幸せだと思っていたんだが…名前にとっての幸せは良い家に嫁ぐ事ではないんだと、総司は俺に教えてくれたんだよ」

名前「…そんな…総ちゃんが…」


いつもは飄々としていて掴みどころのない沖田が、近藤と土方に頭を下げたなんて。
それも沖田自身の為ではなく、名前の為に。
大切な友人を守りたいが為に……。
まるで胸を締め付けられたかのような痛みを名前は覚える。

そして近藤は、優しく笑った。


近藤「すまない、名前。お前の気持ちを無視して話を進めようとしていた。お前を幸せにしたいと言いながら、お前の幸せを俺が勝手に決めつけてしまっていた。…こんな不甲斐ない兄を許してくれるか?」

名前「そんな、兄様!兄様は何も悪くありません!元はと言えば私の心が幼いのが原因なんです!ですからどうか、頭を下げないで…!」

近藤「そんな事は無い。お前は優しい子だからな、俺が浮かれているのを見て本心を言い出せなかったんだろう?」


穏やかな近藤の瞳に顔を覗き込まれて、名前は否定の言葉が出なくなってしまう。


名前「…でもっ…せっかくの見合い話を、私の我儘一つで断るなんて…そんな事をしたら試衛館の評判が…!」

近藤「…その事なんだがな。実は御相手から、急な話だから名前の気持ちを一番に尊重してやってほしいと言われていてな。お前が気持ちを偽って嫁にくるのは、先方も望んでいないようなんだ。それでは心から幸せにしてやれないだろうと…。皆、お前の本当の幸せを望んでいるんだよ」

名前「えっ……」

近藤「もし仮に道場の評判が下がったとしても、お前が気にする事は何もない。そんなもの、お前の笑顔に比べたら安いものだ。それに、お前の幸せを優先して下がる評判など、俺はいらないよ」


じんと目頭が熱くなる。
涙を堪えるのに必死だった。


近藤「名前。お前の口からしっかりと聞かせてくれ。お前は、これからどうしたい?」


─── 私は、幸せ者だ。
こんなにも自分を思ってくれる人が周りにいるなんて。
大好きな皆と、ずっと一緒に。


名前「私は…兄様達と、ずっと一緒にいたい…!」


─── 私の望みはただ一つ。
皆の傍に居たい、それだけだ。

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