銀桜録 試衛館篇 | ナノ


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永倉「 ──── いやー、良かった!本当に良かったぜ!!」


名前が意識を取り戻して暫く経つと、みるみるうちに熱は下がっていった。
現在は微熱程度で落ち着いており、名前も体を起こせるくらいにまでは回復している。
そんな彼女を見て、皆は安堵の溜息を零していた。


名前「…ごめん、なんか凄く心配掛けちゃったみたいで…」

藤堂「心配とかそんなもんじゃねえって!お前、生死の境をさ迷ってたんだぞ!?もうオレ、気が気じゃなくて…!」

山南「藤堂君、気持ちは分かりますが少し声が大きいですよ。名前さんはまだ病み上がりなのですから……」

藤堂「あ…ご、ごめん」

名前「ううん!私の方こそ、本当にごめんね」


途端に声を潜めた藤堂に、名前はくすりと笑って自分も謝罪をした。

名前が目覚めぬ間、試衛館はまるで雪に埋もれてしまったかのように暗かった。
皆の剣筋は乱れており、稽古すらままならなかったのだ。
やはり彼女は試衛館の太陽なのだと、誰もが思うのであった。

すると、近藤が皆を見渡して口を開く。


近藤「…皆、すまんが一旦席を外してもらえないか。名前と少し、二人で話をしたいんだ」


皆はその言葉に顔を見合わせると、静かに頷いて部屋を去っていく。

一方名前は目を少しだけ見開いて近藤を見ていた。
その瞳はどこか不安げに揺れていて。
それを見た沖田は立ち去る前に一瞬名前の耳に顔を寄せる。


沖田「…大丈夫。近藤さんは君の味方だよ」

名前「えっ…?」


それがどういう意味なのか尋ね返す間もなく、沖田はするりと名前から離れて部屋を出て行った。

先程までは大勢いた人が減って一気に二人きりになり、部屋はしんと静まり返る。
その沈黙に耐え切れなくなった名前は、つい近藤に声を掛けた。


名前「…あの…兄様?」

近藤「む?…ああ、いやすまないな。少し…昔の事を思い出していたよ」

名前「昔の、こと…?」

近藤「ああ。お前がまだ、このくらい小さかった時だ」


そう言って近藤は微笑みながら、当時の名前の身長を手で示す。
それは正座をしている近藤よりも遥かに低く、おそらく名前が五歳か六歳くらいの時のことだろう。

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