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沖田「…この際だからさ、ちょっと聞いてもいい?」
斎藤「…何だ」
沖田「一君さ、この子の事どう思ってるの?」
斎藤「…どう、とは」
沖田「この子を女の子として見てるのかってこと」
沖田の言葉に、斎藤は静かに目を伏せた。
沖田「…僕さ、この間の見ちゃったんだよね。この子が、君に想いを告げるところ」
斎藤「……聞いていたのか」
沖田「盗み聞きするつもりは無かったんだけどさ。この子が焦ったようにあちこち走り回ってるから気になっちゃって」
まさかあの場を目撃されていたとは思わず、斎藤は弾かれたように顔を上げた。
沖田「…でもさ、この子が倒れたのは君のせいじゃないと思うから。あんまり思い詰めないでよ」
斎藤「…何故そう言えるのだ」
沖田「この子ならきっとそう考えるから」
それは、通常ならば根拠には程足りないものである。
しかし不思議な事に、沖田が言うと説得力がある。
それは、沖田が彼女の事を誰よりも分かっているからだろう。
沖田「…この子、きっと嫁ぎたくないんだよ。見ていればわかる、この子は近藤さんの夢を叶えたいが為に我慢してたんだ。いつでも自分より他人が優先の、誰よりも優しい子だから。…本当、馬鹿だよ。こんなになるまで抱え込むなんて」
斎藤「……」
沖田「…僕にも本心を言ってくれなかった。だから久しぶりに腹が立ったんだよね、この子に」
そう言って再び名前に視線を落とす沖田。
その瞳は怒っているようには見えず、酷く悲しげであった。
沖田「むかついたから、仕返しに近藤さんと土方さんに言っちゃった。名前は嫁ぎたくなくて悩んでるんです、だけど試衛館の評判の事とかも色々考えて、それで抱え込んで倒れたんですよって」
口では悪態をついているが、彼の起こした行動は名前を思っているからこそなのだろう。
しかし斎藤が気になったのはそこではない。
斎藤「…名前は…嫁ぎたくなかったのか」
沖田「当たり前じゃない。この子が好きなのは君だよ。三年前からずっとね」
"名前「私……一君の事が好き。三年前に貴方に助けてもらったあの日から、ずっと貴方の事が好きだった。きっと、最初で最後の恋だと思う」 "
あの時の彼女の言葉が、一字一句鮮明に斎藤の脳内で蘇る。
あまりにも真っ直ぐで、眩しいとすら感じてしまう言葉だった。
沖田「…凄く真っ直ぐで誠実な子だからさ。叶わないとわかっていても一君への想いを捨てる方法がわからなくて…。だけど、それだと見合い相手にも失礼だと思ったんだろうね。きっとどうすればいいのかわからなくなって、だけど誰にも相談できなくて…その結果がこれだよ」
沖田は名前の頬を撫でる。
その手つきは酷く優しく、彼女を大事に思っているのが伝わるものだった。
沖田「…それでさ、一君はこの子をどうしたいの?この子をどう思ってるの?」
斎藤へ向けられた沖田の視線は、厳しいものだった。
まるで自分の子供を守るかのような目付きである。
斎藤「…俺は…」
自分は、彼女をどう思っているのだろう。
それは、斎藤自身もわかっていないことだった。
斎藤「…俺は、剣に生きると決めた身だ。彼女の想いに応える事はできぬ」
沖田「……」
斎藤「…だが…俺自身にも分からぬのだ。名前に見合い話が来たと聞いた時、心から祝福出来なかった。これで彼女が幸せになれるというのに、何故か祝福できぬのだ。…そしてもし、これが名前の望まぬ婚姻なのであれば…出来ることならば、彼女を引き止めたい」
沖田「…ちょっと待って。それって、」
斎藤の予想外の返答に、沖田が驚いて目を見開いた時である。
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