銀桜録 試衛館篇 | ナノ


3

──── 無事道場に着いてからというものの、今日は掃除が身に入らない。

名前は雑巾がけをする手を止めて、一人ぼんやりと縁側に座って庭を眺めていた。
その間に脳裏を何度も過ぎる、あの切れ長の蒼。

すると、ふわりと先程と同じ感覚に身を包まれる。


沖田「何してるの、風邪引くよ」

名前「……総ちゃん」


現れたのは名前と同じく試衛館に住む、沖田総司であった。
沖田は自分の着ていた羽織を名前に被せたのである。
その沖田の行動は、名前に自然と先程の出来事を思い出させた。

ちなみに、あの少年が貸してくれた羽織は、綺麗に畳んで名前の部屋に置いてある。
あの羽織を、いつか返せる日が来るのだろうか?


沖田「随分と静かだね、気持ち悪いなぁ」

名前「酷くない!?」

沖田「あ、戻った」


ケラケラと笑う沖田。
沖田は腰を下ろすと、名前と肩を並べる。


沖田「……今日、随分と上の空じゃない。何かあったの」


ズンッと名前に寄りかかってきながら、そう尋ねてくる沖田。
重い重いともがけば、仕方なさげに身を引いてくれた。

しかし彼は、名前を心配して聞いてくれているのだろう。
名前は、今日起きたことを全て話すことにした。

話している間にもあの少年を思い浮かべては、胸がキュッと締め付けられるのを感じていた。
ついでにその謎の胸の痛みの事も話しておく。


沖田「……」


話を全て聞き終えた沖田は、驚いたような表情で名前を見ていた。


名前「…何、その顔」

沖田「何、じゃないでしょ。…うわあ、遂に来たかこの時が」

名前「え、何よ?何の話?」

沖田「なんで自分で気付いてないの、さっ」

名前「痛っ!?」


沖田の指が近付いてきたかと思うと、ピシッとおでこに衝撃が走る。


名前「痛いよ、急に何すんのさ!」

沖田「君が鈍感すぎるのが悪い」

名前「鈍感?何が?」

沖田「ほらぁ、そういうところ」


沖田が呆れたような、そして面白がるような視線を名前に向けてくる。

そして彼は、とんでもない一言を放った。
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