寒椿
11/13

それ以来、僕と双子は望月の夜に逢瀬を重ねている。
「望月の夜にだけ」と、最初の朝に約束をしたから。
僕も双子も大好きな「あれ」を持ち寄って。
いつも言葉を発するのは、白いドレスの少女だった。
硝子の瓶に詰められたそれを一つ一つ取り出しては眺め、頬を紅潮させてはほうとため息をこぼす。
満面の笑みを浮かべながら、瞳をクリクリと回転させ、僕が「それ」をどこで手に入れてきたのかに耳を傾ける。
言葉の一つ一つ、情景の一つ一つを自分の中で反芻し、恋い慕う相手が目の前にいるかのように胸に手を当てては、僕の話の先を促す。
黒いドレスの少女は、それをただ黙って聞いているだけだ。決して笑みを浮かべたり、言葉を発したりはしない。むしろ、冷ややかな眼差しを僕に向けてくる。
けれど、僕には態度も何もかもが正反対なその二人が揃っている様が、何よりも愛おしく感じられた。
「ねえ、もっと。もっと聞かせて」
頬を紅潮させて、期待に輝かせた瞳を向けられるのは、歓喜。
冷たい硝子のような眼差しと、白磁のような感情のない顔を向けられるのも、歓喜。
笑う顔、笑わない顔。
促す声、聞こえない声。
熱のこもった瞳。冷たい硝子の瞳。
しなやかに動く指先。微動だにしない指先。
薄桃色に輝く爪。青白く輝く爪。
同じ顔の二人、けれど、正反対の二人。
相反する二つが同時に存在していることにこんなにも心躍らせる僕は、どこか少しおかしいのかもしれない。
けれど、焦がれる。
それらを常に自分のものにしたいと。
自分のものにして、飽くことなく眺めていたいと。
そして、「それ」を剥ぎ取る時のことを思うだけで、僕の胸は高く高く、鳴り、ひび、き……



さくり。

廃墟の前には、ただ真白い塊が続くばかりだった。
踏み荒らされた様子もなく、それは昨夜からここに誰も足を踏み入れていないことを意味していた。
僕は両の肩が重くなるのを感じた。
それなのに、真白い塊を踏み荒らしながら扉へと向かうのはどうしてだろう。
双子がそこにいるかもしれないなんて、砂糖菓子のような甘い幻想を抱いているのだろうか。
それとも、落胆に身を浸しきりたいという感傷か。
真白い塊は僕の長靴(ちょうか)によって踏みしめられ、汚され、土の色と塵とで茶とも灰とも言えぬ色へと変化していた。

さくり、さくり、さく。
ドアノブに手を伸ばす。
拒絶のような冷たさが、手袋越しではあったが掌へと伝わる。
そこで踵を返してしまえば良かったのだろう。
けれど、もう扉は開かれてしまった。
開いたのは紛れもなく僕自身で。
薄暗い室内に差し込む、僅かばかりの朝の光。朝の光と、照り返す雪の白さに慣れていた所為か、部屋の中はいつもよりも暗く感じられた。
軋む床の音を聞きながら、部屋の奥へと歩を進める。
ほの暗かった視界が、ゆっくりとクリアになっていく。
部屋の中にあるのは、傾いたテーブルと、椅子が数脚。黴で変色してしまったチェストボード。

――それだけのはずだった。

視線を感じて、僕はそちらに顔を向けた。
息が止まるかと思った。
時は確実に止まっただろう。
虹色に輝く瞳が四つ、真っ直ぐにこちらをみていたからだ。

「来て、いたのか」

 

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