「…ボクは蕎麦よりうどん派なんだが…」

これみよがしに溜息吐くのが果てしなくムカつく。
この国では年越しには蕎麦を食べるって風習があるんじゃい。
わざわざ私の家まで来てなんだそれ。
せっかく天麩羅まで乗せた蕎麦出してあげたのになんだそれ。

腹立つ、玉章の前から丼を掻っ攫ってやろう。
…チ、さっと持ち上げられたか。

「文句あんなら食べなきゃいいじゃん。」
「別に文句じゃあないさ。」

あぁぁ私の海老まで食べたぁ!ぐちぐち煩い癖して海老食べたぁ!

「…この狸…!そんなにうどんが好きなら一生うどんだけ食べてろぉ…!血管にうどん流せ…!」

悔しさに頬杖ついてむくれれば、聞こえてくるのは除夜の鐘の音。

「…玉章さぁ、そんな家に居づらいなら除夜の鐘に化けなよ。で百八回叩かれな。そん位やりゃ皆も反省したと見なしてくれんじゃない?」
「ボクにそんな性癖は無いね」
「そういう風にしか物事見れないひん曲がった性格も、百八回叩かれりゃ初期化されるよイダダダダ」

なんかもう、ほっぺ抓られるのお約束になってきたぞ…!

「わかってないな」
「何がよ…」

ひりひりする頬を摩って少しキレ気味に問う。
そうすれば今度は玉章が頬杖ついて、そっぽを向いた。
なんでアンタが拗ねてんのよ!

「別に家に居づらいからあやめの所に来た訳じゃないさ。」
「…じゃあ、どうしてよ?」

ごーん、ごーん。
酷く煩く鐘は叫ぶ。
それでも聞こえた、小さな呟き。

「…一年の始めにあやめの顔が見たかったからだ、なんて言ったら…君はどんな顔をするのかな。」
「はっ?」

…実を言うと、割としっかり拾えたんだけど。
それでも思わず聞き返す。
え、私の耳おかしくなった?
だって、あの玉章がそんな殊勝なこと言う?

じっくり観察してみるが、素知らぬ涼しい表情を崩さぬ様は、狸よりは猫を被ったみたいだ。
…澄ました顔して、可愛いこと考えるんじゃん。

とりあえず、鐘が鳴り止んだら言ってやろう。
私は年の始めだけじゃなく、年の終わりの瞬間もアンタと過ごせて嬉しいよって。
そんで…来年も、ずっと一緒にいれたら嬉しいよって。




公開:2010/12/31
修正:2011/02/14



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