*妖怪×陰陽師パロ
*死ネタ注意
「相変わらず手前は叶わない恋をするなぁ」
愉快気な声の主につい、と視線を滑らせる。
深い青の長い髪の鬼は、金糸の髪に深紅の瞳を持つ鬼を嘲る様に笑った。
「しかも今度は陰陽師ときた。ホント、手前は馬鹿だよ風間」
「何とでも言え……」
傍に控える赤髪が無言で傍観しているが口を挟む気はないらしい。
風間は目を伏せて己に果敢に挑んできた美しい黒髪の男を思い浮かべた。
月夜の晩、桜が舞い散る中出会った彼。その姿に一瞬で心を奪われてしまった。
しかし、その男は己と敵対する者、陰陽師だった。
目が合った瞬間に攻撃を仕掛けてきた彼の印を結ぶ姿、翻る射干玉のような髪、鋭く光る紫苑の瞳。
自分より力が劣るにも関わらず更に惹きつけられた。
「あなたがここまで執着するのを久方ぶりに見ました。百年振りぐらいですかな」
「ははっ、懐かしいな。で、今日も会いに行くのかい?」
至極楽しそうに、しかしどこか悲しそうな顔をしながら二人は背を向けて歩く風間へ声をかける。
無言は肯定、歩んだ先でまた殺し合う。
きっと一生相容れられない関係のまま時は過ぎていくんだろう。
妖怪である自分と陰陽師の彼、しかも何千年と生きる鬼と、その一瞬しか生きられない人間とじゃ溝が大きすぎる。
「それでも、」
どうしても愛したいと思ってしまうんだ。
─────
桜が舞い落ちる。
月に照らされて幻想的な世界を作るそれは赤い血溜まりへと波紋を作って徐々に沈んでいく。
そして、木の幹に寄りかかり、目の前で足を投げ出して座り込む彼にも舞い落ちていた。
「……貴様、何故」
ただ呆然と呟いた。
声を聞いて重く閉ざされていた瞼が持ち上がり、光を失いつつある紫苑が己を映し出す。
「何だ……お前か……死に際にテメェの顔を拝む事になるとはな……」
「っ、おい!何があった!答えろ、土方!」
蒼白な顔のまま苦笑する土方に声を荒げてしまった。
土方が呼吸するたび皮膚を失った横腹から血が溢れ出る。
近寄って確認したが臓腑まで傷付いており、とてもじゃないが助かりそうにもない。
「何故……何故なんだ……!」
どうして自分から彼を奪ったのだ。
ただでさえ少しの間しか一緒に生きられないというのに。
爪が食い込むまで手を握り締め、奥歯を噛み締める風間の頬に冷たい何かが触れてきた。
顔を上げると浅い呼吸を繰り返す土方が手を伸ばして風間の頬へ添えている。
「なんて顔してんだよ……お前らしくもねぇ……」
弱々しく微笑む土方を風間はゆっくりと抱きしめる。
徐々に失われていく体温が悲しくて思わず力強く抱きしめてしまった。
「お前を、愛していた」
「…………」
「もっと、傍に居たかった。このようにしたかった……なのに、」
どうして人はこんなにも脆弱で簡単に壊れてしまうんだろう。
それは最後まで口にすることは出来ず、嗚咽に変わってしまった。
土方の肩に額を押し付け、必死に涙が出そうになるのを我慢する。
「……そうか……すまねぇな」
「っ、!?」
「お前を、置いてっちまってよ……」
その言葉と背中に回された手で、堪えていた涙は溢れ出てきた。
横で笑う気配がする。
「何だかんだで、俺もお前が……頭から離れなかったんだよ」
「土方」
「陰陽師だとか、そういうのに捕らわれず……もっと……たくさん話したかった……」
最後には声が震えていて、首筋に濡れた感触が伝わってきた。
背中に感じる力ない指先の感触が愛おしさを大きくさせる。
身体を離して絶え間なく涙を流す土方の目元に触れると、幸せそうに笑ってくれた。
「かざま……」
「土方……俺は、お前を、愛しているぞ」
一句ずつ、しっかりと伝えるように口を動かし、微笑んでみせる。
土方もまた美しく微笑んで、舞い落ちる桜が二人を包み込む。
「俺も、愛してるよ……千景」
優しい口吻けをかわす直前に囁かれた言葉は、鬼の頬にまた涙を伝わせた。
(最初で最後に触れた温もり)
遅いハロウィン企画。
この二人の悲恋というものを書いてみたかったんです。